クナを聞く 第3回
ハイドン編「その1 交響曲第88番」

1999/10/3
1999/10/17(Update)

ハイドン
交響曲第88番ト長調
K30Y270
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(rec.1958? LIVE?)
KING SEVEN SEAS/K30Y270(日)
TAH 303-304
シュターツカペレ・ドレスデン
(rec.1959/11/28 LIVE)
TAHRA/TAH 303-304(輸)2CDs
CHCD-1008
シュターツカペレ・ドレスデン
(rec.1959/11/28 LIVE)
CHACONNE/CHCD-1008(Private)
TAH 213
ヘッセン放送交響楽団(フランクフルト)
(rec.1962/3/20)
TAHRA/TAH 213(輸)
KICC-2025
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(rec.1962/12/16 LIVE)
KING SEVEN SEAS/KICC-2025(日)
 クナのハイドンの交響曲第88番のCDは5種類が確認できているが、その内KINGから出たK30Y270は小生持っていないので、音質、演奏などは確認できなかった。そのK30Y270に関しては、吉田光司著"Hans Knappertsbusch Discography"では、CDのブックレットには1957年録音となっているが、1958年の間違いであろうと書いてある。さらに、この1958年の録音が、「最も練れた表現を見せている」となっていて、悔しいかな、小生は持っていないので詳細は分からない。持っていても分からないか(^ ^ ;;;;。

 と書いたら、以前ミン吉さんのご厚意で1958年盤を聞くことができた。確かに、後年の演奏の面白さはないが、第88番では最も充実した響きである。この演奏の響きは素晴らしかった。Thanksミン吉さん(1999/9/17)。


 ハイドンの交響曲第88番は「V字」と日本では呼ばれるが、それはイギリスでの呼称を敷衍したもので、ドイツでは第2楽章の演奏効果から「バグパイプ付き」と呼ばれるそうだ。実際にハイドンが「V字」という名前を付けたわけではない。モーツァルトやベートーヴェンと同じように、楽譜出版社が名前を付けたらしい。
 第88番と第89番は「トスト交響曲」とも呼ばれる。トストは実在の人物で、そのエピソードが面白い。トストはハイドンからこの2曲の交響曲の発売権を獲得し、フランスの楽譜出版社に売り込んだものの、ハイドンに金を払わなかったので、ハイドンは出版者あて手紙を書いたりしている。トストは、交響曲だけではなく、ハイドンのクラヴィア曲も出版社に売り込んだが、やはりハイドンには金を払わず、ハイドンはさらにイラついたようだ。
 ところが、トストは後年ウィーンのエステルハージ候家の家事を担当していたハイドンの後援者のひとり、マリア・アンナ・ドゥ・ジェルリシェクと結婚、ハイドンの後援者の立場に変わり、ハイドンに更に作曲を発注したり、ハイドンから曲の献呈を受けたりした(「ハイドン 交響曲全集]」序文より 音楽の友社刊)。世の中は分からないものだ。

 ホグウッドやブリュッヘン以降、ハイドンの交響曲はピリオド楽器のオーケストラによる録音が主流になってきた。ブリュッヘンのCDは小生も持っていたと思うのだが、いつものごとくそのCDが見つからない(^ ^ ;。
 小生の持っているのはオールド・スタイルのものばかりで、クナの他はアーベントロート盤、フルトヴェングラー盤、ワルター盤(コロンビア響)、ライナー盤、クレンペラー盤、NAXOSのワーズワース盤。他にもあったような気がするのだが、確認できなかった。
 それらの中で、今回スコアを見ながら聞き直して「おお!」だったのは、さすがにクレンペラー盤。これは名盤だ。やはり、ヴァイオリンの両翼配置が効果を上げており、その適切なテンポ感(!)、エネルギッシュにスコアを再現して行くさまは見事だ。まず、第88番ではイチオシだろう。その他で「おっ!」と唸ったのはライナー盤、アーベントロート盤と、何とNAXOS盤だった(^ ^)。
 ライナー盤は驚くべき高速の演奏で、当時のシカゴ交響楽団の合奏精度は凄い!スコアを見ていても、今、どの当たりなのか見失ってしまうほど早い。恐ろしく締まりまくった演奏。クナの演奏とは正に対極。
 アーベントロート盤は、第1楽章のアレグロの速度、その有無を言わせない最終楽章の迫力など、やはり凄かった(^ ^ ;。
 NAXOSでは、既にハイドンの交響曲はベートーヴェンの交響曲と同様、他の指揮者のサイクルになっているのかも知れないが、そこまでは確認していない。
 しかし、このNAXOS盤の発売当時、バリー・ワーズワースもカペラ・イストロポリターナ(なんかうそ臭い名前だな^ ^)もまるで知らなかったが、オーケストラの精度や演奏者の技量はイマイチながら、その柔らかなトーンと、演奏の周囲に感じられる空気感がなにより素晴らしい。ワーズワースの指揮もテンポやアゴーギグなど中庸を得ていて、安心して聞いていられる。迫力も充たしている。これは万人向けハイドンだと思うし、ファースト・チョイスにしても遜色はないと感じる。

 クナの演奏では、TAHRA/TAH303-304と、CHACONNE/CHCD-1008は同一演奏のCDのはずなのだが、音質の違いからか、最初まるで異なる演奏のように聞こえる。CHACONNE盤はLPからの板起こしのようで、サーフェス・ノイズやスクラッチ・ノイズ(それほど大きな音ではないが、細かく全面に入っている)が盛大。第1楽章冒頭には、「ぶるるーん、ピリピリ」とエアチェック時に混入したようなノイズは入るし、第2楽章冒頭にテープの転写ノイズのようなソプラノの声が聞こえる(^ ^)。さらに、LPの左右の壁の音圧が異なるからか、モノラルながら、少しステレオ・プレゼンスがある。
 同一の演奏かどうかを確定するために、オーディエンス・ノイズを確認していったが、第1楽章124小節目や128小節目で両方ともかすかな「ゴホン」が聞こえ、第2楽章44小節目で「カタッ!」という音の後、しばらくガサゴソ音が聞こえるので同一演奏には間違いがない。第3楽章17小節目でも「ケホ」、第4楽章が終わってからのフライング気味にひとりが「パチパチ」とたたいて、他のオーディエンスの拍手が入る。その他でも、けっこうオーディエンス・ノイズが確認できたが、CHACONNE盤は他のノイズも盛大なため、その全てはTAHRA盤で確認できないものもあった(^ ^ ;。CHACONNE盤は「古いLPを聞いている」という雰囲気はあるが、その存在意義はTAHRA盤の登場によって薄れてしまった。発売当時のCHACONNE盤の復刻に尽力された方々のご努力には頭が下がるが・・・。TAHRA盤はオリジナル・テープからの復刻のようで、立派な音。
 と、いうことでTAHRA/TAH303-304とCHACONNE/CHCD-1008は同一演奏だということが確認できたので、小生は今、3種類のクナのハイドン交響曲第88番の演奏記録を聞くことが出来るわけだ。そのうちの2種類は最晩年の録音だ。
 3種とも、現代聞ける同曲の他のCDと比較すると、おそろしく遅いテンポの演奏。特に第3楽章の「トリオ」や、第4楽章では「別の楽曲を聞いているのではないか」と思えるぐらい、テンポを落とし、ゆっくりのんびり演奏する。
 どの演奏も素晴らしく面白いが、この中でどれか1種ということになれば、KINGの2種、CHACONNE盤とも入手しにくいため、TAHRA盤のどちらかということになるが、音、演奏の充実度などから、フランクフルトのヘッセン放送響楽団との1962年3月30日の録音の方がお薦め。最後の拍手がカットされているか、元々ないようなので放送用録音だと思う。
 KINGの1962年ウィーン・フィルとの12月16日の録音は、寂寥感さえ漂う名演ながら、堂々とした威容ではTAHRA盤の方が勝っているようだ。TAHRA盤はクナらしさが横溢している演奏で、最終楽章の195小節からのアッチェランドは強烈だ。これはサービス満点だな(^ ^ ;;;;。

第1楽章
 4分の3拍子のゆっくりした序奏部から始まる。この序奏部はクレンペラー盤ではスコア通り繰り返されているが、クナ盤では繰り返しは省略されている。アレグロは4分の2拍子。普通の演奏なら、アレグロからテンポを早めるところだが、クナ盤では逆にテンポが落ちる。
 さらに普通なら45小節目からも幾分テンポが速くなるはずだが、クナ盤はインテンポを守る。クナは古典派の音楽をバランスよく聞かせることよりも、そのムードに重点に置いているようだ。そのため、ハイドンの交響曲のプロポーションの良さなど、眼中にはない。1790年頃がどのようなムードにあったのかを印象づける。
 さらに晩年になればなるほど、各小節をバラバラにしかねないほどひとつひとつのメロディに重点を置いて行く。ただ、内声部の充実ぶりはさすがで、メロディを浮き上がらせつつ、土台をしっかり築いているので、本当に音楽が崩れてしまうことはない。
 ハイドンの交響曲演奏としては?の部分もあるが、この拡大された古典意識は魅力に富んでいる。

第2楽章
 1962年12月16日のウィーン・フィル盤の冒頭、オーボエとチェロによるメロディの寂寥感と脱力感はどこかうらさびしげだが、ほんのり暖かな演奏にもなっている。48小節からの寂寥感、83小節目からの弦による情緒満点のメロディは魅力的だ(これは拡大された形で94小節目から繰り返される)。テンポも極めて遅め。65小節、67小節、69小節に第1ヴァイオリンの32分音符の魅力的なパッセージがあるが、その浮遊するような歌わせ方は独特。
 ヘッセン放送交響楽団盤は、そのような寂寥感はないが、もう少し前向きなテンポだ。41小節、43小節のメリハリもしっかりとしているし(同一音型の小節は後にも出てくる)、52小節からの弦の厚みやその歌わせ方、アクセントの付け方は素晴らしい。まるでベートーヴェンの交響曲第9番の第3楽章を聞いているような雰囲気。これは録音の性質の違いにもよると思うが、ヘッセン放送交響楽団盤は極めてスケールが大きい。
 1959年のシュターツカペレ・ドレスデン盤でも同様だが、少し冒頭からのメロディなどチェロの音量が不足しているためか、1962年盤の充実した響きは聞けないが、その分49小節からのヴァイオリンの美しさが堪能できる。41小節、43小節のメリハリの付け方は、幾分ベターっとした印象。
 しかし、1962年の2種の録音と大きく印象が変わると言うことはない。マスター・テープの保存状態やCD化の状態にもよるのだろう。

第3楽章
 1962年盤2種からは、アクセントをつけるクナの足音が何回か聞こえるが、1959年盤からは聞こえない。また、1959年盤はトリオに移ってからのテンポ変化もそれほど極端ではなく、1962年盤2種に比較して音楽の流れはスムーズだ(と言っても、他の演奏者のCDとは、やはりかなり違うが)。
 1962年盤2種では、メヌエットの各冒頭に戻る箇所で、クナは足を踏みならしてアクセントをつける。さらに、トリオに入ってからのテンポの遅さは特筆ものだ。このような表現は他のどの指揮者の演奏からも聞かれなかった。
 ただ、ウィーン・フィル盤は少し録音が貧弱なので、その点ヘッセン放送交響楽団盤は音もよく、スケールも大きい。メヌエットの冒頭に戻る以外にも、18小節のフォルテでもクナは足を鳴らす。トリオは全く別の音楽として演奏しているようだ。
 また、ウィーン・フィル盤ではそれほど極端には聞こえなかったアゴーギグが、ヘッセン放送交響楽団盤ではさまざまな箇所で聞くことが出来る。トリオの52小節や66、67、68小節のアクセントも、これだけ極端な演奏でもツボにはまると、もの凄く面白いのと同時に、真実味を獲得している。

第4楽章
 どのクナ盤を聞いてもテンポは極めて遅く、第1主題のファゴットとヴァイオリンによるひなびたユーモアたっぷりのメロディが印象的。音楽は様々に形を変えるがその都度、第1主題のメロディが何度も繰り返される。1959年盤の195小節目からの終結部も少しアッチェランドがかかるが、ヘッセン放送交響楽団盤ほど極端ではない。
 ウィーンフィル盤は、速度を速める楽句ではすこしもたついている印象があるが、第1主題のひなびた味わいから、ユーモアたっぷりで違和感がなく聞けてしまう。195小節からのアッチェランドも、クナの足音1発、もう少し迫力があっても良さそうなものだが、極端に言うとディミュニエント気味に終わってしまう(^ ^)。
 ヘッセン放送交響楽団盤の表現はさらに徹底しているが、オーケストラがもたつかない充実した響きのためか、ウィーンフィル盤のようなユーモアは後退している。
 195小節からのアッチェランドは、クナの足音1発、大きな岩が転げ落ちるように終結する。


 クナの演奏を聞いていて、そのノスタルジックなメロディの歌わせ方、独特のテンポにクナファンの小生は嬉しくなってしまうが、やはりリファレンスは必要だろう。
 アーベントロート盤も優れているが、リファレンスとしては、スコアに何が書いてあるのかを考えると、ライナー盤とクレンペラー盤が適しているように感じる。
 廉価でハイドンの魅力に触れるなら、前述の通りNAXOS盤が好適だろう。
参    考
CMS 7 63667 2
ハイドン交響曲集

オットー・クレンペラー指揮
ニュー・フィルハーモニア管弦楽団
フィルハーモニア管弦楽団
(rec.1964...Sym No.88)

EMI/CMS 7 63667 2(輸)3CDs

09026-60729-2
ハイドン交響曲集

フリッツ・ライナー指揮
シカゴ交響楽団
(rec.1960...Sym No.88)

BMG/09026-60729-2(輸)

8.550287
ハイドン交響曲集

バリー・ワーズワース指揮
カペラ・イストロポリターナ
(rec.1989)

NAXOS/8.550287(輸)


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