クナを聞く 第26回
ウェーバー編1 舞踏への勧誘

2000/10/22

CARL MARIA VON WEBER
AUFFORDERUNG ZUM TANZ,Op.65
MONO90260
TAH 311/312
Berlin Philharmonic Orchestra
(rec.1942)

(arr-Hector Berlioz)
PREISER/MONO 90260(Austria)
TAHRA/TAH 311/312(France)2CDs


KICC-2024
KICC-8517
Bayerisches Staatsorchester
(rec.1955/3/20 LIVE)

(arr-Felix Weingartner)
KING SEVEN SEAS/KICC-2024(Japna)
MELODRAM/MEL18033(Italy)


KICC-2104
KICC-8517
KICC-8935/6
pocl9764
440 624-2
Vienna Philharmonic Orchestra
(rec.1960/2)

(arr-Hector Berlioz)
KING SEVEN SEAS/KICC-2104(Japan)
KING SEVEN SEAS/KICC-8517(Japan)
KING SEVEN SEAS/KICC-9835/6(Japan)2CDs
DECCA/POCL-9764(452 782-2)(Japan)
DECCA/440 624-2(England)2CDs

 ウェーバーの「舞踏への勧誘」は最初ピアノ曲として作曲され、後にベルリオーズによってオーケストレーションが施され、一気にポピュラー名曲の仲間入りをした。優れて標題的で情景描写に優れた音楽は、ロマン派の作品に受け継がれてゆく。
 「舞踏への勧誘」は、小生最近でこそあまり聞かなくなってしまったが、子供の頃はそれこそ耳にたこができるほど聞いた。無論、その頃はクナの演奏ではなく、別の指揮者のものだったと思うが、チェロのゆったりとして落ち着いたプロローグから、明るく華やかなワルツに場面が変わるところでは、目の前がぱっと明るくなるようで、繰り返し楽しんだ記憶がある。
 クナのDECCA盤も、LP時代のかなり以前から聞いてきている。これは昔からLPでよく再発されていたし、同じLPに収録されている他の楽曲同様、ポピュラー名曲の1枚として持っていた。自分が今ほどクナの創り出す音楽にはまりこんでいない時期だ。そのノスタルジックに古風な音楽は、どこかホットできる音楽づくりで、現代音楽やテクノ=オルタネイティヴ系のロックばっかりを聴いていた時期の、解毒剤のような作用を持っていたのではなかったかと思う。ただし、その頃はクナにはそれほど興味はなく、音楽そのものを聞いていたような気がする。クナの凄さを認識できたのは、ずっと年を取ってからだ。
 実は今回、「舞踏への勧誘」を久しぶりに聞き直した。クナでは、ベートーヴェンやブルックナーの交響曲、ワーグナーの楽劇はそれこそ、いやと言うほど聞いているが、オーケストラ小品を繰り返し聞く機会はそんなに多くは作れないでいる。
 久しぶりに聞いて、クナの演奏に酔うと同時に、子供時代にタイムスリップした感覚に襲われる。冒頭チェロの幾分哀愁を含んだ落ち着いた響きは、舞踏会にデビューした少女にダンスの相手を申し込む初老の紳士の表現だと、どこかで読んだ記憶があるが、その初老の紳士に自分が今なりつつあり(紳士かどうかは、横に置いておいて^^)、「舞踏への勧誘」の情景がその登場人物の中で、自分の実時間と逆転していることに感慨を持たざるを得ない(^^;。
 なお「舞踏への勧誘」はスコアを持ち合わせていないため、小節表示はできなかった。

 クナの「舞踏への勧誘」の録音は3種類、手元に9枚のCDがあった。内5枚はDECCA盤だ(^^;。
1942年盤
 PREISER盤と、TAHRA盤。どちらもクナの歴史的音源が収録されているCDの中の1曲だ。PREISER盤の方がノイズリダクションを派手にかけていない分、音は鮮明だ。TAHRA盤はノイズリダクションが大きくかかっているため、高域での鮮明度はイマイチながら、全体に中低域の膨らんだノイズを気にしないで聞ける聞きやすい音。逆に、PREISER盤はノイズは盛大だが音に芯があり、どちらかを選ぶということになれば、PREISER盤だろう。
 ただ、これは好みの問題もあり、ノイズがない方がいいのであればTAHRA盤で充分だし、TAHRA盤を持っていて、その音に満足している方は、無理矢理PREISER盤に買い換える必要はない。ピッチの変化もなく、ほぼ同じようなサウンドクオリティだ。小生、試しに2台のCDプレーヤーを手動で頭出しして、チャンネルを切り替えながら聞き比べたが、見事に同期した(^^)。

1955年盤
 山陰の盤友、ぶりちょふさんからお借りした、MELODRAM盤とKING SEVEN SEAS盤。MELODRAM盤は録音時期、オーケストラの表記間違い。KING盤はK30Y268として出ていたものの出し直しである。なお、1942年盤と1960年盤はベルリオーズ編曲だが、この1955年盤はワインガルトナー編曲だそうである。
 前回、シューベルトの「軍隊行進曲」では、MELODRAM盤とKING盤で大きなピッチの差があったのに、「舞踏への勧誘」ではそれほど大きなピッチに差はなかった。幾分、KING盤の方がピッチは低いようだが、「軍隊行進曲」でのような差ではなかった。「舞踏への勧誘」に使用されたテープが「経年変化で少し伸びたのだ」ぐらいの差だ。これは、KING盤の1曲1曲のマスターテープが異なっていたからなのだろうか?その理由は小生には分からないが、KING盤は1曲1曲を精査して聞かないと、何がなんだか分からなくなってしまう、と言うことかも知れない。
 音は、MELODRAM盤はしまっており、これはこちらの方がマスターに近いのだろう。終わりの拍手も省略することなく収録されている。KING盤はウルトラ派手でダイナミックレンジも大きく、少しノイジーだが非常に聴き応えがする。
 ここでは、MELODRAM盤をリファレンスにして聞いた(^^)。

1960年盤
 KINGで出ていたDECCA盤と、ポリグラムからのDECCA盤。音は、それほど大きくは変わらないが、シューベルト「軍隊行進曲」でも取り上げたように、ポリグラム盤は原テープのホワイトノイズも派手にぶち込み、音の鮮明度を上げた。音として鮮度が高いのはポリグラム盤だろう。左右へのステレオ効果も広がっているし、弦楽器の粒立ちも鮮明だ。しかし、全体的に聞き易いのはKING盤のような気もする。通常なら文句なくポリグラム盤をリファレンスとして取り上げるべきだが、小生はへそ曲がりか(^^;。ポリグラム盤から、古くよき時代の懐かしさのようなものがなくなってしまったと書くと、それは書き過ぎか(^^;;;;。
 ここでは、KING盤のKICC-8517をリファレンスとして聞いた。


1942年盤、1960年盤
 同じベルリオーズ編曲を演奏していると言うことで、1942年盤と1960年盤を聞いてみた。
 クナは、若いときからこのポピュラーな楽曲が好きだったのだろう。1942年盤はそのチェロの最初からゆったりと音楽が息づいており、ワルツへの経過句もしっとりとしている。ただ、「舞踏への勧誘」の中心となるワルツでは、1942年盤では少し表情がスポイルされているようで、1960年盤のような人なつっこさはない。ただ、当時としては、このクナの1942年盤は相当な名演であったはずで、この通俗的な名曲から、しっかりとした構成感や精度を引き出している。遊びがそれほどあるとは言えない演奏だが、クナの当時の苦しかった時代を考えると、このがっしりとした演奏に、当時のベルリンでのクナの微妙な位置に思いが行ってしまって、多少息苦しささえ感じる。
 1960年盤は、これは文句なく楽しめる。冒頭、チェロの響きから既に美しく、ひなびていて素敵だ。ワルツでは、クナはいきなり強奏で、目の前がパーっと明るくなるような場面転換が行われるように演奏したかったに違いない。すこし、編集がミスったのかその唐突具合がもう一つながら、ワルツ全体はものすごく微に入り細に入り、よくこれだけ細かなフレーズを大切にして演奏しているものだと感心する。そのため、楽曲の姿が本質以上に立派に、スケールが豊かに再現されてゆく。各楽器のバランスも絶妙で、下味は下味として、目立たなくてはならない部分はしっかりと目立つように演奏されてゆく。幾分、金管楽器がもの凄い響きを出すのだが、クナの演奏ではお馴染みで、納得してしまう。カラヤンの美演ではないのだ(^^)。これは、木を丹念に描きながら大きな森に発展させてゆく、クナの芸風が典型的に現れた名演だと思える。幾分、おっとり気味のテンポながら、そのゆったりとたゆたうような呼吸感は何ものにも代え難い。時折、哀愁を含んだメロディが顔を覗かせるが、恐らく、他の指揮者では感じ取れない切ない優しさを含んでいる。恐らく、クナと全く逆の演奏をして成功しているのはトスカニーニだけだろう(トスカニーニの同曲を収録したCDを探しているんだが、見つからないんだ、これが(-_-;))。オーケストラも、このゆったりとした音響絵巻を楽しんでいるかのように、クナの棒によって演奏しているかのようだ。これは、ひさしぶりに聞き直して、余人には代え難い名演だと感じた。

1955年盤
 この「舞踏への勧誘」を編曲したワインガルトナーは、ウィーン・フィルに一時期君臨し、ベートーヴェンの交響曲の演奏方法に今に至るまで大きな影響を残したフェリックス・ワインガルトナーだと思うが(違ってたらごめんなさい^^;)、ごれがそのワインガルトナー編曲だったら、編曲ではものすごくお茶目な人だったんだなと思う(^^)。クナは、一夜のポピュラー・コンサートで、シューベルトの「軍隊行進曲」を含め、このような新しい編曲ものを指揮をして楽しんだのだと想像できる。もしかすると、「軍隊行進曲」もワインガルトナーの編曲かも知れない。ただ、実際にはそのスコアや資料がないので分からない。
 冒頭、チェロの挨拶は同じだが、ベルリオーズ編曲とは異なり響きが分厚く、どこかブルックナー交響曲第7番の冒頭を聞いているかのようだ(^^)。まだ、プロローグの部分は大人しいが、ワルツへの経過句まで優美な編曲だと思わせるところが曲者だ。ワルツが始まるといきなりティンパニが活躍をし始め、ドタンドタンと賑やかしい。静かな箇所はなるほどと思うが、弦楽器が低域から盛り上がり、爆発する箇所など、これはいかにもクナが遊びでやりたそうな編曲だ。中間部の優美なワルツは素敵な情感とメロディを際だたせる第1ヴァイオリンなどは非常に美しく弱音が光っているが、ワルツが強奏される箇所でのアクセントの太鼓やシンバルが派手に鳴り響く所など、もう少し徹底すれば、ラヴェルの「ラ・ヴァルス」張りなのになぁ、と少し残念になったりして(^^;;;;。
 しかし、この編曲は非常に楽しい。対抗旋律がチェロで浮かび上がったり、鳴り物が派手に鳴ったりと、お祭り気分を楽しませてくれる。うねる弦楽器は、クナの演奏を想定しての編曲だったのだろうか。ワルツの後半でのテンポをがくっと落としてのウィンナワルツのパロディは、本当に目がくらむようで楽しい。最後、チェロの感謝の言葉のようなモノローグは確かにウェーバーの楽曲だが、このプロローグとエンディングに挟まれたワルツの楽しさ、品のなさはワインガルトナーとクナ一流の遊びであったのかも知れない(^^)。
 1960年のスタジオ録音がこのワインガルトナー編曲であったら、きっと物議を醸しだしていたと思うが、そうだったら楽しかったのに、と不埒なことが頭に浮かんでしまった(^^;。


 クナと「舞踏への勧誘」が似合わないと考えられる方がおられれば、それは大きな間違いだ。1942年のクナにしては緊密な演奏から、クナは同曲を十八番にしていたことが想像できる。そして、1960年盤は、少しおっとりした感触のため、現代で言われるスペクタクルな演奏ではないのかも知れないが、その情感やスコアの襞の襞まで再現している、非常に優れた演奏だと言えると思う。また、その深い呼吸感は、他の誰にもなしえないような豊かなスケールを獲得している。
 1955年盤は、現在入手しにくいのが難点だ。ベルリオーズ版と異なる、このケレンに富んだ編曲はクナの遊び心と一体化したときに、その威力を発揮しているとも考えられるので、是非ともどのレーベルかで、復刻されることを願ってやまない。多分、ORFEO D'ORにはちゃんとしたテープがあるはずなのだ。同日の録音の前後の曲目をCD化しているんだし・・・。ワインガルトナーの著作隣接権がクリアできていないのかも知れないが。ORFEOさん、何かのおまけでもいいから、このとてつもなく面白い演奏を是非、復活させてくださいm(_ _)m。

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