クナを聞く 第28回
ロッシーニ、ランナー、ロルツィング、グリンカ編

ロッシーニ;「ウィリアム・テル」序曲
ランナー;「シェーンブルの人々」
ロルツィング;「ウィンディーネ」序曲
グリンカ;「ルスランとリュドミラ」序曲

2001/1/21
2001/1/22Update

Gioacchino Rossini
Guillaume Tell-Overture

ARC-110/111
MONO 90389
WCD-40
Orchester der Staatsoper,München
(rec.1928 S)

ARCHIPHON/ARC-110/111(Germany)2CDs
PREISER/90389(Austria)
WING/WCD-40(Japan)


Josef Lanner
Die Schönbrunner,Op.200

MEL 18033
KICC-2024
C 426 981 B
Bayerisches Staatsorchester
(rec.1955/3/20 L)

MELODRUM/MEL 18033(Italy)
KING SEVEN SEAS/KICC-2024(Japan)
ORFEO D'OR/C 426 981 B


Albert Lortzing
Undine-Overture

90183
Berlin Symphony Orchestra
(rec.1933/4/10 S)

PREISER/90183(Austria)


Michael Ivanbovitch Glinla
Ruslan and Ludmilla-Overture

90183
Berlin Symphony Orchestra
(rec.1933/4/21 S)

PREISER/90183(Austria)


 21日にアップしたら、ランナーの「シェーンブルの人々」で一枚載せ忘れがあった(^^;。PCのキーボードを打っている机の上にまで出しておきながら、コロッと忘れてしまっていた。BBSでご指摘があるまで気が付かなかった。これに懲りず、今後とも宜しくお願いしますm(_ _)m。
Rossini;Guillaume Tell-Overture
 クナの「ウィリアム・テル」序曲。1種類の録音で3つのレーベルから出ている。元のソースは同じようだが、それぞれ音が違う。Archiphon盤は、低域が豊かで最も一般受けする音。小生もこれが一番好きだ。Preiser盤はSPそのもののような音で、低域は貧弱で高域が少しきつめだが、恐らくこれが原音源に一番近い音か。Wing盤は、上下に寸づまりの感じがしてモコモコした音ながら、これも比較的聞き易い。SPのCD化は、これはもう趣味の世界なので、どれが一番リファレンスとなるか、と言う議論は少しむなしい。小生も、さまざまな方のところでSPを聞かせていただいているが、どのシステムも音の傾向が異なる。低域をしっかりと再生したいという方もおられれば、78回転という情報量の多い(SPは驚くほど情報量が多い)スピード感を求めておられる方もいる。また、人間の「声」に重点を置いて(これが正当だろうけれど)再生しておられる方もおられれば、ヴァイオリンの音色が際だつようにシステムをアレンジしておられる方もいる。SPでは非常に難しい、オーケストラの音を生々しく再現されている場合もある。
 小生はSPに関しては門外漢のため云々しないが、LPと同様カートリッジやフォノ・イコライザーによって音ががらっと変わってしまうため、その再生の難しさは痛感するし、SPをしっかりとした音で再生している方々には畏敬の念さえ感じる。

 「ウィリアム・テル」序曲は、それこそ幼児の時から聞いている(^^;。小生が幼児の頃、テレビという贅沢品は自宅にはなく、テレビをお持ちの家へ子供がゾロゾロと上がらせてもらって、みんなでワイワイ見ていた。相撲以外の番組はたいがいアメリカのテレビ・ドラマで、「ローン・レンジャー」と「ハイウェイ・パトロール」が中心だった。テレビが我が家に来たのは「月光仮面」が始まった頃だ。その「ローン・レンジャー」のテーマ音楽が「ウィリアム・テル」序曲のマーチの部分だった。祈りの音楽が最初にくっついた、これだけ長い音楽だと言うことを子供の頃は知らなかった。小学校高学年のころ、小学校の音楽室で序曲全曲を聞かせてもらった。大規模な音楽に驚いた記憶がある。ロッシーニの作だけに、イタリア・オペラだとばかり思っていたが、実は「ウィリアム・テル」はフランス語で書かれた、ロッシーニ最後のフランス大歌劇なのだそうだ。

 クナの「ウィリアム・テル」序曲は古めかしい録音が1種残っているだけだが、参考にトスカニーニ盤と聞き比べてみた(1953 S)。これ1曲だけ聞いてみても、トスカニーニって凄い指揮者だったんだな、と思う。序奏部から充実した美しい響きで、ドラマを意識させるような音楽作りだ。そのスコアの再現には冒頭からなるほどと思う。祈りのチェロの音が真摯に分厚く響く。非常にテンポはゆったりしている。意外だったのはクナ盤に比較して音楽にゆとりがあり、たっぷりとしているところか。その音楽は感動的である。嵐の音楽の暗く、不安に溢れた緊張感はさすがである。ティンパニーが効果的にゴロゴロと鳴る。夜明けの音楽もゆったりと演奏される。少しフルートのオブリガードがやかましいバランスだが。その後のマーチは、どこか高貴さが漂う。迫力はあるが、それほどオーケストラを煽らない。落ち着いた進行である。最後のコーダなど、さすがに凄い演奏だなと思う。
 クナの「ウィリアム・テル」序曲は、最初1本のチェロが少しずつ増えてゆくような、どこか室内楽的な響きで、表情は幾分明るめ。トスカニーニでは厚みのあるアンサンブルだった。そのアゴーギグやポルタメントは非常に美しい。トスカニーニのように祈りの雰囲気はない。夜明け前の不安な情景は、音はSPからCD化したモコモコした響きだが、嵐の表現としては適切だ。テンポはかなり早い。夜明けの音楽は元々どこかのんびりした音楽だが、クナ盤の木管奏者のソノリティはSPからの板起こしという部分を割り引いても非常に高い。その後のマーチも小生実はさまざまな演奏を聞いてクナ盤が最も好きなのだが、極めて真面目に演奏してゆく。その細部をおろそかにしないクナの楽曲に対する姿勢は非常に真摯だ。イタリア・オペラやフランス・オペラの明るさや華やかさはあまり感じられないが、起伏に富んだ引き締まった演奏で、「ウィリアム・テル」序曲のこれは名演である。


Lanner;Die Schönbrunner
 この「クナを聞く」は、ほぼ作曲者の生まれた年代順だが(シューベルトはちょっとフライングしたが・・・)、ウィンナワルツがここに登場したということは、けっこう成立は古いということである。ヨゼフ・ランナーはシュトラウスファミリーに先駆ける存在だった。ウィンナワルツは、ウェーバーの「舞踏への勧誘」が嚆矢となるが、その成立に最も貢献したのが、ヨゼフ・ランナーだ。ヨハン・シュトラウスT世とも仲間で、おそらくは一緒に演奏する機会も多かったはずだ。
 「シェーンブルの人々」はそのランナーの最後に作曲された代表作で、非常に豪華な響きがするが、直接シェーンブル宮とは関係していないそうで、ランナーとその楽団が演奏の主ステージにしていたカジノで演奏するために作曲されたものではないかと推測されている。

 クナ盤は1955年のライヴ録音が2種のレーベルからCDが出ている。ひとつはイタリアのMELODRUM盤で、もう一つはCAVIARを原盤とするKING SEVEN SEAS盤だ。両盤でピッチに大きな差はなかったが、KING SEVEN SEAS盤はMELODRUM盤に比べて少し音が華やかで、イコライジングで高域を持ち上げているのかも知れない。少し高域にクセがあるようだ。MELODRUM盤の方が音は締まっている。MELODRUM盤が元の録音に近い音だろう。
 と書いたら、ORFEO D'OR盤を忘れていた(^^;;;;。ORFEO D'OR盤は非常にしっかりと整音された正規盤だ。MELODRUM盤に比べて、音の上下がしっかりしており、臨場感ではMELODRUM盤だが、恐らくこれが最も原音源に近い音か。かなりボリュームを上げて聞いてみると、MELODRUM盤は多少音に暴れを感じさせるが、ORFEO D'OR盤はスムーズである。MELODRUM盤は帯域の狭い分が迫力に繋がっているが、ORFEO D'OR盤はきちんとDレンジまで捉えられる音。KING SEVEN SEAS盤のように高域にクセはなく、大変聞き易い。モノラルながら奥行きを感じさせる音で、MELODRUM盤は入手しにくいし、ORFEO D'OR盤がリファレンスで問題はないと思う。ただ、1955年の録音としては収録曲が少なく(KING SEVEN SEAS盤が一番多い)、その辺りが残念だ。
 「シェーンブルの人々」は、我が家にも数種類のCDがあるが、ウィンナワルツでは定番とも言えるシュトルツ盤を参考に聞いてみた(DENON)。他にも少し聞いてみたが、どこか器械体操化するウィンナワルツの踊りのようにリズムが無機質で、当時のドレスを着た女性が踊るには適していないのではないか、と感じた。さすがにシュトルツの録音は良かった。
 当時の踊りは、今のように器械体操化したものではない。ナポレオン戦争後のヨーロッパのあり方について、延々と続いたため「会議は踊る」と揶揄されたウィーン会議のレセプションが発端だが、ひとつのワルツの中に、踊る人たちの最初ゆったりとして、徐々に気持ちが高ぶってゆく心理的な変化が必要だろう。そして、ターンにふさわしいフレーズは、とことんリタルダントしないと、実際に動くことができない。スピーカーの前でしかめっ面して聞いているわれわれも、その波のように生起するリズムが心地よくないと、なんだか「オイッチニ!」とけしかけられているようで面白くない。それは、3拍子のリズムの刻み方にも現れていて、なぜ第1拍目にアクセントがあり、第2拍と第3拍が流れるようでないといけないのか、男性なら女性を振り回すリズム、女性なら振り回されて右に左に揺れるステップを踏む自分を想起すれば理解可能だ。
 シュトルツ盤、クナ盤とも、その表現に納得しながら聞くことができた。振幅はクナの方がより大きく、メロディの歌わせ方、内声部の生かし方、フレーズによって揺れるリズムなど、大指揮者が振ったウィンナワルツの趣で、楽曲の起承転結がしっかりしている。シュトルツ盤は起承転々と言う感じで、全曲聞いた後の充足感には少し足りないが、それでも無機質なワルツに陥っていないのは素晴らしい。
 クナはワルツを振るのが楽しかったようで、その大仰な響きも徹底した表情付けを行い、楽曲の全容を遺憾なく発揮させている。最初のファンファーレから一気に盛り上がり、ワルツの導入部の心憎いリタルダンドは「こうでなければならない」という思いにさせられる。しばらく、起伏のあるワルツが奏でられた後、大きくワルツは盛り上がり、中間部の下降する音型のあと、ワルツはさまざまなフレーズを繰りかえしながら高揚してゆく。トリオとも呼べる部分でのメロディの人なつっこさはクナならではか。後半のリズムはゆっくりと進行させることによって、音楽の振幅を見事に捉えている。終結部直前の愛らしい響きと直後に続く、管弦楽の大きな盛り上がりは大小の波のようで非常に美しい。コーダも弛緩することなく終わる。
 クナのウィンナワルツは、どれも聴き応えがするし、小生は誰のウィンナワルツよりも大好きだ。
 蛇足ながら、1999年に録音されたガーディナー指揮ウィーン・フィルとの「シェーンブルの人々」も(DG)、少し響きが均一すぎて単調だが、ゆったりとしたテンポでなかなか素敵だった。


Lortzing;Undine-Overture
 ロルツィングは「ロシア皇帝と船大工」というオペラだけ知っているが(聞いたことはない^^;。芸術現代社版「オペラ事典」に載っていたもんで^^;;;;)、「ウンディーネ」というオペラは知らなかった。さまざまな管弦楽曲集のCDを探してみたが、「ウンディーネ」序曲が入っているCDは我が家にはクナ盤しかなかった(^^;。
ロルツィングは、イタリアのオペラ・ブッファとドイツのジンク・シュピールをうまく合体したようなオペラを作曲していたそうで、作品は「ロシア皇帝と船大工」、「密猟者」、「ウンディーネ」、「刀鍛冶」、「オペラのおけいこ」などが知られているそうだが、作品数はもっと多かったようだ。小生は、クナの録音した「ウンディーネ」位しか知らないが、モーツァルトとウェーバーの中間のような音楽で、ベートーヴェン「フィデリオ」のような劇的な音楽を聞かせる箇所もある。最初は悲劇的だが、中間部以降チャーミングなメロディと劇的な起伏を聞くことができる。ベートーヴェン、ワーグナーの啓蒙的、思想的な流れではなさそうだ。
 小生、この楽曲はクナ盤しか持っていないため、他の演奏を聞いてニュートラルな部分を知ることはできないが、クナのこの古い演奏記録は極めてロマンティックである。
 冒頭金管楽器によって、運命的な動機が奏でられ、弦楽器がその後のドラマを暗示するように、暗い音色を奏でる。その後、音楽は劇的に進行する。その後、第2主題とも呼べる部分のメロディは魅力的である。もう一度最初の劇的な部分に戻り、第2主題のメロディへと変化してゆく。その弦楽器のポルタメントやレガートは後年のカラヤン張りだが、メリハリがしっかりと利いており、弦楽器のアインザッツが揃っていないように聞こえる所もあるものの、後半音楽はゆったりと息づくように聞かせてくれる。コーダは幾分唐突に始まり、音楽は一気に終結する。

Glinka;Ruslan and Ludmilla-Overture
 「ルスランとリュドミラ」序曲は、名盤の誉れ高い(?)ムラヴィンスキー盤が我が家にあるはずだが、誰のどの曲とカップリングされていたのか忘れてしまったため、捜索に困難を極めている(^^;。恐ろしくエネルギーたっぷりの高速演奏だったと記憶しているが、普段、ムラヴィンスキーも「ルスランとリュドミラ」序曲もあまり聞かないため、2000年末の大整理の折り、どこへ入れたのか忘れてしまった(^^;;;;。
 グリンカは、ムラヴィンスキーの「ルスランとリュドミラ」序曲だけがあまりにも有名なため、あまりよく聞かれているとは言い難いが、ロシア音楽の父のような存在である。重要作はオペラだが、管弦楽、室内楽、合唱曲など、その作品は多岐に渡る。後の民族楽派的なロシア音楽は、グリンカが様々な紆余曲折を経てその戸口に立たせたと言ってもいいようだ。残念ながら、グリンカが生きていた当時のロシアは、音楽の最大のスポンサーであった皇帝家がイタリア音楽が好みでグリンカの音楽を理解できず、ロシアでは成功したとは言い難かった。。
 しかし、グリンカの創り出した音楽は、ロシアの若い世代へと確実に引き継がれてゆく。
 「ルスランとリュドミラ」序曲は以前からよく知っている楽曲で、最初の音が聞こえてきたときから、その沸き立つような音楽を想起するのだが、クナ盤からは残念ながらその沸き立つような音楽は聞くことはできない。むしろ、非常にゆったりとしたこの音楽の本来持つ優雅さ、楽しさを浮き彫りにしたような演奏。第1主題が終わって愛らしく木管楽器がずれているように聞こえるが、これでいいのか手元に聞き比べ盤がないため分からない(^^;。同じ箇所が2回繰りかえされるが、2回目はずれていない。あるいは音がほんの少し欠落してずれているように聞こえるのかも知れない。ティンパニーの音はポコポコしているが、録音年代を考えると納得できる部分か。
 少し弦楽器がプルトが少ないようなスカスカした響きで、グシャっとした箇所もあるし、SPの盤面が変わるため、すこし音色の移動があったりするものの、中間部のメロディはものすごくチャーミングである。その後半のレガートは美しい。つっけんどんなような響きだが、メロディはしっかりと息づいている。「ルスランとリュドミラ」序曲の名盤だ、と言う気はさらさらないが、クナのレパートリーの記録としては貴重であり、楽曲を離れて若き日のクナの音楽を楽しむことができる。小生が今までLPなどで聞いてきた、ムラヴィンスキー盤、オーマンディ盤、セル盤、カラヤン盤(だったよなぁ)などとは、全くテンペラメントが異なる演奏である。

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