8種類、小生の手元にあるクナの「マイスタージンガー」はどのように音が違うのか?小生、まとめて聞き比べたことはなかったが、今回の機会に聞き比べてみた。
ただし、8種類のCD−BOXを全曲聞いている時間は残念ながらない。第1幕前奏曲と、第1幕冒頭のオルガンとコーラスが出てくるシーン、引き続いてヴァルターとエヴァの逢い引きシーンなどから拾い聞きしてみた。
1950/51年 DECCA・スタジオ録音
DECCAの本家イギリスが発売元になっているドイツプレスと、日本の国内プレスでは、CDの音が微妙に違う。ドイツプレスは重みのある音で、高域も低域もナローだが、国内プレスは高域が強調され、ハッキリクッキリしていて、ドンシャリ型の音になっている。その分、国内プレスは多少刺激的だが分離がよく聞こえ、ドイツプレスは全体的にナローレンジながら、各楽器のブレンド具合がよく調和している。が、分離は国内盤ほどよくない。
しかし、ドイツプレスの各楽器のブレンド具合は納得できるものだ。
最初、かなりの音の違いに、別の「マイスタージンガー」BOXと間違えて聞いてしまったのかと思ったが、同じ音源だった。どちらがいいか、各個人の持つ再生装置の違いによると思うが、大型システムを組んでいる方はドイツプレス、小型システムを組んでいる方は国内プレスが向くような気もする。また、大型システムを使っていても、音にメリハリがあり、高域がシャリシャリしている方がお好きな方は、国内プレスだろう。ヴァイオリンやトランペットの音にそのことは顕著である。
こう書くと、国内プレスはドンシャリの悪い音と、とらえられそうだが、そうではない。国内プレスの水準は高く、CD屋にドイツプレスが見あたらず、国内プレスを購入されても、全く問題はない。オペラの幕が上がり、オルガンが静かに鳴り響く中での合唱は、ドイツプレスに比べて、国内プレスがモヤが晴れたような音で見事だ。
小生は、何回も同じCDを聞かなければならないため(こんなシリーズ、始めるんじゃなかった^^;;;;)、刺激の少ないドイツプレスの方が聞き疲れがしなくて好みだが、それは聞き方の問題だ。ドイツプレスの歌手の声は自然だが、幾分引っ込み気味で、国内プレスの方が歌手の声は前に出たようにしっかりと聞こえるかも知れない。
また、これは本編で書くべきことだが、クナは第1幕前奏曲を管弦楽のオーケストラピース版を演奏、オペラ本編の収録と編集で合体させたように聞こえる。あるいは、前奏曲と本編が別々に収録され、編集されたかだ。特に国内プレスでは、第1幕前奏曲の最後と本編の音のつながりが不自然で、かなりの音質の変化だ。
1952年 バイロイト・ライヴ録音
3種類のCD-BOXがあり、2種類はイタリアプレス、1種類はアメリカプレスだ。実は、どれも正規盤とは言い難い(^^;。正規盤は、1950/51年のDECCA盤と、1955年のORFEO D'OR盤だけだ。
HUNT盤は長い間その存在を知らなかったが、偶然中古屋で見つけた。疑似ステレオのようなステレオプレゼンスがあり、緩やかにモノラル音源が左右に広がる。高域、低域とも不足なナローレンジで満足できるレベルではないが、ゆったりとしていてとても聞きやすい。ティンパニーのロールなどドロドロしてしまい、ギミックがすぐに分かってしまうが、聞きにくい音ではない。ただ、このCDは現在では入手しにくい。
MUSIC & ARTS盤は、番号を変えて発売されていると思うが、現物をまだ確認していない。HUNT盤を真正モノラルにしたような音で、全体的にナローレンジだ。AMラジオのような音で、けっして聞きにくい音ではないが、後述するGOLDEN MELODRAM盤のような冴えた音ではない。歌手が出てきても、その音はかなりこもっている。
HUNT盤、MUSIC & ARTS盤に比べると、GOLDEN MELODRAM盤の音はかなり立派で、現在でも比較的入手し易いのではないか。1952年盤では、大枚はたいて音の悪いHUNT盤を中古で購入したり、MUSIC & ARTS盤を購入しなくても良さそうだ。GOLDEN MELODRAM盤はしっかりしたモノラル(変な表現だな^^;)で、ダイナミックレンジ、Fレンジとも年代を考えるなら全く不満はない。繰り返しになるが、これは大変立派な音だ。HUNT盤と比較すると、どこかテンポが早めに感じてしまうが、それはHUNT盤やMUSIC & ARTS盤の分離が悪く、さらにHUNT盤ではステレオプレゼンスが加えられているためだろうか?
HUNT盤やMUSIC & ARTS盤は、古き良きバイロイトの一夜を聞いている趣なら、GOLDEN MELODRAM盤は客席に座って、今そこで生み出されているクナの「マイスタージンガー」を聞いているような錯覚を覚えるほどの差がある。
文句なしに、GOLDEN MELODRAM盤!
1955年 ミュンヘン・ライヴ盤
クナは、1951年から1953年を除いて毎年バイロイトでワーグナーの楽劇を振っていたが、ホームグラウンドはミュンヘンだった。バイエルン州立歌劇場は1963年に再建され、カイルベルトが「マイスタージンガー」でこけら落としをする(この記念碑的なカイルベルトによるライヴ録音は、BMG CLASSICS/GD69008で聞くことができる)。このクナの1955年の録音は、プリンツレゲントテアターでの録音だ。
現在、小生の手元には2種類のCDボックスがあるが、KING SEVEN SEAS盤の方が、ORFEO D'OR盤よりも5年ほどリリースが早い。KING SEVEN SEAS盤はミュンヘン・クナ協会会長フランツ・ブラウンからのテープ提供を受け、制作されたものだ。
KING SEVEN SEAS盤は、かなり立派な音で迫力がある。1955年という年代を考えると、ダイナミックレンジ、Fレンジとも納得できる。低域の厚みもなかなかのものだ。ただ、音がフォルテ以上になると、チリチリしたノイズが入る。聞きにくい音ではないが、少し残念ではある。
正規盤となるORFEO D'OR盤は(KING SEVEN SEAS盤は正規盤ではない)、KING SEVEN SEAS盤と比べると、かなりおとなしい音だ。フォルテ以上になってもノイズはないので、安心できるが、迫力ではKING SEVEN SEAS盤よりもかなり後退している。管弦楽も、KING SEVEN SEAS盤に比べると、厚みではプルトの少ない室内オーケストラのような響きだ。 第1幕前奏曲で金管が何カ所かこけるので、同じ演奏で間違いがないが、KING SEVEN SEAS盤、ORFEO D'OR盤で、これだけ音が違うのか!と驚いてしまった。個人的には、KING SEVEN SEAS盤の強奏でのノイズに、最後まで聞き通すのはつらい面はあるが、その迫力は捨てがたい、と感じる。ORFEO D'OR盤は、割とチマチマとまとまった音で、恐らく放送局提供のテープを使用しているため、放送音源としてこちらの方が真正な音だとは思うが、少し整音しすぎか。
ただ、KING SEVEN SEAS盤は入手が難しく、小生もORFEO D'OR盤をリファレンスにして聞いてゆこうと思う。
1960年 バイロイト・ライヴ盤
この録音は、知る限りではGOLDEN MELODRAM盤1種類しかないが、いやはやこれは凄い音だ(^^;。その低域の底なし具合には、空恐ろしくなるほどだ。高域は決して分離のいい音ではないし、テープの劣化からか音がブツ切れる箇所も散見するが、この低域にはぶっ飛んでしまう。土台のしっかりし過ぎた極端なピラミッドバランスだが、クナの渦を巻くような低域のすごさを知っている身にとっては、それだけで大満足してしまう。第1幕前奏曲の演奏されている裏での、舞台装置の移動がやかましいが、それはバイロイトでのライヴだもの「臨場感!」と思って我慢するしかない。第1幕前奏曲のフォルテシモに至る長大なクレッシェンドと巨大な音の壁には息をのむ他はない。
この風圧充分の低域は、2001年になってDISKYから復刻された、カラヤンがEMIに録音した(LPでのファーストリリースは1972年)チャイコフスキー交響曲第5番、第6番「悲愴」のような低域だと言えば、分かっていただけるだろうか?
クナの1960年盤「マイスタージンガー」をモニターしていると、今、前奏曲が終わり、第1幕教会の堂内のシーンに移った。そのオルガンとコーラスによる風圧の豊かな重厚な響き!
さらに、モノラルながら歌手の動きや息使いを彷彿とできるノイズが生々しい。
クナの1960年盤「マイスタージンガー」はジャケット共々地味な印象で、発売当時注目したのはクナファンだけだったのかも知れないが、それは非常にもったいない話だな、と思う。演奏のすごさに関しては、追々明らかにしてゆきたいと思う。
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