クナを聞く 第48回
ワーグナー編その6−3

ワーグナー:楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」Vol.3
2002/4/21

Richard Wagner
Die Meistersinger von Nürnberg


POCL 7082
440 057-2
Hans Sachs...Paul Schöffler
Veit Pogner...Otto Edelmann
Sixtus Beckmesser...Karl Dönch
Fritz Kothner...Alfred Poell
Walther von Stolzing...Günther Treptow
David...Anton Dermota
Eva...Hilde Gueden
Margdalene...Else Schürhoff
Ein Nachwächter...Harald Pröglhöf

Wiener Staatsopernchor & Wiener Philharmonker
(rec.1950 & 1951/9 S)

DECCA LONDON/POCL 7082(Japan)4CDs
DECCA/440 057-2(England)4CDs


CDLSMH 34040
GM 1.0003
CD 1014
Hans Sachs...Otto Edelmann
Veit Pogner...Kurt Böhme
Sixtus Beckmesser...Heinrich Pflanzl
Fritz Kothner...Werner Faulhaber
Walther von Stolzing...Hans Hopf
David...Gerhard Unger
Eva...Lissa Della Casa
Margdalene...Ira Malaniuk
Ein Nachwächter...Gustav Neidlinger

Chor und Orchester der Bayreuther Festspiele-1952
(rec.1952/8 L)

HUNT/CDLSMH 34040(Italy)4CDs
GOLDEN MELODRAM/GM 1.0003(Italy)4CDs
MUSIC & ARTS/CD 1014(USA)4CDs


KICC-2255
C 462 974 L
Hans Sachs...Ferdinand Frantz
Veit Pogner...Gottlob Frick
Sixtus Beckmesser...Heinrich Pflanzl
Fritz Kothner...Albrecht Peter
Walther von Stolzing...Hans Hopf
David...Paul Kuen
Eva...Lissa Della Casa
Margdalene...Hertha Töpper

Chor und Orchester der Bayerichen Staatsoper
(rec.1955/9/11 L)

KING SEVEN SEAS/KICC-2255/8(Japan)4CDs
ORFEO D'OR/C 462 974 L(Germany)4CDs


GM 1.0029
Hans Sachs...Josef Greindl
Veit Pogner...Theo Adam
Sixtus Beckmesser...Karl Schmitt Walter
Fritz Kothner...Ludwig Weber
Walther von Stolzing...Wolfgang Windgassen
David...Gerhard Stolze
Eva...Elisabeth Grümmer
Margdalene...Elisabeth Schärtel
Ein Nachwächter...Donald Bell

Chor und Orchester der Bayreuther Festspiele-1950
(rec.1960/8 L)

GOLDEN MELODRAM/GM 1.0029(Italy)4CDs


 クナは、テンポの遅い指揮者だとよく言われる。確かに1940年代でもモーツァルト「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」の最終楽章のようにとんでもなく遅い例もあるが、モーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」はTAHRAがCDでリリースするまで、以前には知られていなかった演奏録音だ。
 「クナのテンポは遅い」と言う一般的な評価は、WESTMINSTER盤でのワーグナーやブルックナーでの印象が中心になったものかも知れない。あるいは、ハイドンの交響曲録音か。「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕前奏曲でも、WESTMINSTER盤はかなり遅かった。
 ところが、オーケストラピースとしてではなく、全曲録音の前奏曲としては、4種類あるクナの「ニュルンベルクのマイスタージンガー」演奏記録ではタイミングはバラバラだ。バイロイトでの1952年、1960年の演奏は遅く、1950/51年ウィーン、1955年ミュンヘンでの演奏はかなり速い。
 小生、クナの「ニュルンベルクのマイスタージンガー」全曲を聞いたのは、KING SEVEN SEAS盤1955年ミュンヘンでの録音が最初だが、WESTMINSTER盤の遅い演奏を思い描いて構えながら聞いたら、その最初から肩透かしを喰ってしまった、と言う経験がある。録音年代云々よりも、「クナは遅い」という思いこみがあったためだ。
 テンポの速い代表のように言われるトスカニーニには、1937年ザルツブルク音楽祭での「ニュルンベルクのマイスタージンガー」全曲の演奏記録が残されているが、ここでのトスカニーニは、ゆったりとしたテンポで音楽を進めてゆく。トスカニーニはバイロイトで「パルジファル」を振っているが、その「パルジファル」は、バイロイトの「パルジファル」最長演奏時間記録(最近誰かが、その記録を破ったんだっけ?)だったのそうだ。残念ながら、そのトスカニーニの「パルジファル」の演奏記録は残っていないようだが。
 クナの演奏記録を聞いてゆくと、こと「ニュルンベルクのマイスタージンガー」では年代的に晩年に近づくほど、テンポが遅くなっているわけではないようだ。特に1955年ミュンヘン・プリンツレゲントテアターでの録音は、何かに憑かれたようにテンポが速い。
 ちなみに、トスカニーニの1937年盤、フルトヴェングラーの1943年盤、クナの4種類のほぼ同じ箇所での第1幕前奏曲のタイミングを計ってみた(トラック毎での計測も可能だが、トスカニーニ盤では幕が上がってからのかなりの部分が前奏曲に続いてトラック1に入っている)。
トスカニーニ(1937)9.04
フルトヴェングラー(1943)9.10
クナ(1950/51)ウィーン8.49
クナ(1952)バイロイト9.38
クナ(1955)ミュンヘン8.40
クナ(1960)バイロイト9.37
 1955年、クナのミュンヘンでの演奏録音は、演奏が始まる前の拍手が7〜8秒ほど入っており、実際の演奏は8分32秒くらいだ。ちなみにクナのWESTMINSTER盤での「ニュルベルクのマイスタージンガー」第1幕前奏曲は10分52秒だった。
 バイロイトでの演奏では第1幕前奏曲をたっぷりと、ウィーンやミュンヘンでは早め、というのは面白い対比だ。1950/51年年盤と1955年盤では、性急な第1幕前奏曲の展開になっていることは、このタイミングの比較からも分かる。
 バイロイトでの演奏とその他の地域での演奏では、なんと1分近くも開きがある。その理由はクナにしか分からない。ワーグナーに浸りきるために来ているバイロイトの聴衆のためには前奏曲からたっぷりと聞かせ、ミーハーの多いウィーンやミュンヘンでは音楽よりも楽劇の展開のおもしろさに焦点を合わせたのかも知れない・・・というのはウソで、リハーサルを充分にできたバイロイトではゆったりと、リハーサルの時間が多くは取れなかったウィーンやミュンヘンではテンポを上げて切り抜けていった、のかも知れない(^^;。この辺りの想像は苦しいので、もうやめにする。
 本当のところは、本編を聞かなければ分からないか(^^;。クナはその本拠地ミュンヘンでは、音楽監督に就任した1922年以降、かくもと思うぐらい頻繁に「ニュルンベルクのマイスタージンガー」を振っている。Hans Knappertsbusch Concert Register,Composer Orderを見ていると唖然とするほどだ。
 とにかく、クナはその年代に関わらず、状況に合わせてタイミングを変えていたらしいことが分かって面白い。
 ちなみに、トスカニーニの1954年4月4日の管弦楽盤録音では9分21秒(MUSIC & ARTS)、フルトヴェングラーの1949年6月の管弦楽盤では9分39秒だった。

 トスカニーニの演奏記録は、1937年という録音年代の古さとテープ劣化のための音の悪さを我慢すれば、これは素晴らしい演奏記録であることが分かる。録音マイクの位置の関係からか、楽器バランスが変な箇所はあるが、その晴朗なメロディの歌わせ方、「ニュルンベルクのマイスタージンガー」への愛情と畏敬が素直に伝わってくる演奏である。意外や、非常に暖かみのある第1幕前奏曲だ。
 フルトヴェングラーの1943年の録音は、ナチス・ドイツ最後の光芒のような記念碑的な演奏会だったらしい。「ニュルンベルクのマイスタージンガー」は1943、44年戦時音楽祭でのバイロイト唯一のプログラムで、ティーチェンが演出を行い、スペクタクルな素晴らしい舞台だったようだが、観客の多くはナチスの歓喜力行使団によって組織された兵士や労働者だったのだそうだ。歌比べの場はナチス親衛隊が協力し、非常に政治色の強い公演になった。指揮者はフルトヴェングラーとアーベントロートの二人の記載がある。このフルトヴェングラーの演奏記録は、最初から力感にあふれていて、万華鏡を見るように音楽が輝いている。テンポの揺れも納得がゆくフレージングで、熱狂的とも言える「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕前奏曲が演奏されてゆく。フルトヴェングラーが足で拍子を取る音も明瞭に聞き取れる。ただ、この演奏録音は、小生の持っているCDの音のせいもあるのか、音質ではイマイチだ。

クナ1950/51年盤
 テンポがキビキビとしていて、非常に聴き応えがある。ただし、どこか表情がスポイルされており、のめり込みながら聞く分には適していない。スコアを見ながら聞いていると、まさに教科書的な演奏である。ザッハリッヒに聞こえるため、あまりリハーサルをしなかったようだが、クナとウィーンフィルなら、これくらいの演奏は朝飯前だろう。その分ではオーケストラの合奏力ともども、非常に優れた演奏であると言うことはできる。221小節からいきなり音質が変化し、本編に流れ込んでゆく。

クナ1952年盤
 響きもテンポも妥当で、極めて堂々とした「マイスタージンガー」第1幕前奏曲だ。聞き進んでゆくと身体が震えるような感動を味わえる。1950/51年盤とは異なり、入念にリハーサルが行われたことが聞き取れる。まさに、フレーズひとつひとつに生命が吹き込まれており、音楽はしっとりとした湿感を伴っている。27小節からの愛情のこもった音楽の、ゆったりとした表現は素晴らしい。59小節からの第1ヴァイオリンのメロディの美しさ、11小節からのフォルテとピアノで交互に演奏される箇所の波のような効果などなど、挙げだしたらキリがないが、全編クナの深い呼吸感が充ちているような演奏になっている。トスカニーニような晴朗な音楽ではないし、フルトヴェングラーのような熱狂的な音楽ではないが、このゆったりとして共感に充ちた「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕前奏曲は素晴らしい。幕が開いてからが非常に楽しみだ。
 音質も、かなりのレベルで満足できる。

クナ1955年盤
 クナが出てきたからだろう、観客は熱狂的に拍手を送っている。観客の拍手と何か叫んでいる間に演奏は唐突に始まる。何を思ったのか、この1955年盤は終始恐ろしく速いテンポで進められる。金管のチューニングが合ってない箇所が散見する。勢いに任せて演奏させたようなところがあり、オーケストラもその音を十全には出し切れていない。ティンパニーも、これでもか!とひっぱたたいているかのように音楽はバラバラになる寸前だ。クラリネットなど、スコアの違う箇所の音を出しているようだし、クナファンにとっては、一面クナらしくもあり、一面クナらしくない演奏に「やってらぁ!」とおもしろがって聞ける演奏には違いないが、これを聞いて一般的な音楽ファンからは「スピードだけ速い、シェルヘン張りに勢いに任せた珍演」と、とられかねない(^^;。
 26小節まで、息つぐ暇はないというのはこのことか。まるで、そこまでがひとつのフレーズのように演奏される。35小節ではホルンが間違え、どこかに落ちてしまう(^^;。55小節でも、間違ってはいないのだが、どこか拍子がずれている。182小節からのティンパニーの「ドンガラガッタンタン」も、「そーれ、やってしまえ!」という感じがよく出ていて、思わずニヤついてしまった(^^)。188小節からのチューバの延々と続くメロディも音程が怪しげだし、息が続くのか、途中で音がひっくり返らないか心配になるくらいだ。
 ハラハラさせてくれるスリリングな演奏だった(^^;;;;。

クナ1960年盤
 この低音には驚かされる。ティンパニーの「ドロドロ」した響きなど、非常な聞き物だ。高域が少しスポイルされてはいるものの、この豊かな低域は素晴らしい。音楽は1952年盤同様、どっしりとした構えで堂々とした音楽になっている。29小節の音楽が静かに息づくような箇所から、舞台裏で大きな物を引きずるような音がやかましい。これは、舞台装置を引きずっているのだろうか?第1幕前奏曲の静かな箇所で、定期的な「ズリーッ、ズリーッ」というノイズが入る。
 この1960年盤は、1952年盤に比べて、少し求心力は落ちているのかなとも感じるが、そのスケールの大きさでは1952年盤を上回っている。求心力は1952年盤の方が素晴らしいが、シミジミとした情感ではこの1960年盤の演奏は特筆に値する。恐らく、「ニュルンベルクのマイスタージンガー」が手の内に入っているからこそ、可能な表現だろう。59小節からの魅力的なメロディ、150小節からの巨大な波など、その魅力的な部分は数多くある。何度か訪れるクライマックスの波の巨大さは、目の前をずんずんとせり上がってくるようで、本当に凄い。


 「トリスタンとイゾルデ」なら、前奏曲を聞くだけでも、その演奏の全体像を想像することができるが、「ニュルンベルクのマイスタージンガー」は、第1幕前奏曲だけ聞いていても、その全体像を把握できないことに気がついた(^^;。
 次回から、本編に入る。
 ただし、年代ごとに一幕ずつログをまとめるか、ひとつのログにひとつの録音を押し込めるか、まだ考えがまとまっていない。「ニュルンベルクのマイスタージンガー」は長いんだし、聞きながら考えよう(^^;;;;。

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