クナを聞く 第54回
ワーグナー編その6−9

ワーグナー:楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」Vol.9 第3幕前奏曲
2002/9/15

Richard Wagner
Die Meistersinger von Nürnberg
Vorspiel zum 3,Akt


POCG-2128
90286
ARC-110/111
AB 78978
IN 1330
URN 22.127
Berliner Philharmoniker
(rec.1928 S)

Deutsche Grammophon/POCG-2128(Japan)
PREISER/90286(Austria)
ARCHIPHON/ARC-110/111(Austria)2CDs
GRAMMOFONO2000/AB 78978(Italy)
IRON NEEDLE/IN 1330(Italy)
URANIA/URN 22.127(Italy)


POCL-4303
Wiener Philharmoniker
(rec.1951/9/14-15 S)

DECCA(POLYGRAM)/POCL-4303(Japan)


TAH 132-125
CDGI 730.1
LV 903/04
4CDLSMH 34051
Nord Deutschen Rundfunk Oechester(NDR)
(rec.1963/3/24 L)

TAHRA/TAH 132-135(France)4CDs
ARKADIA/CDGI 730.1(Italy)
ENTERPRISE DOCUMENT/LV 903/04(Italy)2CDs
HUNT/4CDLSMH 34051(Italy)4CDs


 「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第3幕前奏曲が単独で収録されているCDは、「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕前奏曲が収録されているCDと、ほぼだぶっている。
 ただし、1962年WESTMINSTER盤では、第3幕前奏曲は録音されていない。
 また、LPでは、1950年9月の「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕前奏曲とほぼ同じ時期に録音された第3幕前奏曲があったらしいが、残念ながらCD化されていない。さらに、クナは1947年、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団と、DECCAに第3幕前奏曲、「徒弟たちの踊り」、「マイスターの入場」、フィナーレを録音し、78rpmでリリースされたことがあったらしいが、これは、LP、CDともリリースされたとがないらしい。
 以上は、吉田光司著「Hans Knappertsbusch Discography」(キング・インターナショナル刊)からの情報だが、1963年、NDRとの第3幕前奏曲でも、最初、第1幕前奏曲と第3幕前奏曲を含む録音は、最初NUOVA ERAからリリースされ、その後、HUNTから2種のCDがリリースされた、という情報が「Hans Knappertsbusch Discography」(キング・インターナショナル刊)に載っている。1963年盤は、LPではリリースされなかったらしい。これは、「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕前奏曲でも同様で、小生の書き忘れだが、小生はそのNUOVA ERA盤、HUNTの2種を持っていない。まぁ、HUNT盤はARKADIA盤と同じなので、ジャケットの絵柄は欲しいものの、録音そのものは、聞けなくてもそれほど惜しくはない。第1幕前奏曲に関して、Kna-parc BBSで、tsumuさんが触れられているように、NUOVA ERA盤の音はいいようだ。これは、悔しい(^^;。誰か、譲ってくれ〜!(^^;;;;

1928年盤
 Deutsche Grammophon/POCG-2128は聞きやすい音だ。聞いていて、まったく不満がない。PREISER/90286は、Deutsche Grammophon/POCG-2128よりもノイズは盛大だが、ノイズリダクションをかけてない音で、各楽器(特に弦楽器)の粒立ちは、こちらの方がいいようだ。ただし、PREISER/90286は音の厚みに欠ける。Deutsche Grammophon/POCG-2128の方が全体的にはよい。
 ARCHIPHON110/111は、PREISER/90286よりもさらにノイズが盛大で、独特の浮遊するようなステレオプレゼンスがある。弱音の多い第3幕前奏曲ではDeutsche Grammophon/POCG-2128よりも不利だ。弦楽器の音の美しさと、厚みでは申し分ないが、少し、ノイズがやかましい。
 GRAMMOFONO2000/AB 78978とIRON NEEDLE/IN 1330は、ノイズリダクションは派手に作用しているのが分かる出来で(CEDAR SOUND SYSTEM)、ノイズがなくて聞きやすいのはいいが、帯域が狭く、イマイチな音だ。同じCDの第1幕前奏曲ほど、いい出来ではない。低域に、サーフェスノイズが聞こえるようだ。弦の高域での伸びも悪い。ステレオプレゼンスを付加させたためか、ノイズリダクションで除去できなかったノイズがステレオで聞こえる。また、途中、音が左右に偏る箇所があるが、これは、Deutsche Grammophon/POCG-2128でも聞こえたので、Deutsche Grammophonを元にマスタリングされたものだと考えられる。
 URANIA/URN 22.127は、音圧が他のCDよりも高く、膨張のチェロの響きからかなり聴き応えがある。URANIA盤も、GRAMMOFONO2000/AB 78978のように、ノイズリダクションがかなり利いていて、ノイズの中から音楽を拾い出して聞く、という感じはしないが、音圧レベルは高いものの、寸詰まりの感は否めない。ただし、終始、シュルシュルという、SP盤面に起因する周回ノイズが聞こえる。このCDも、途中でおかしな左右の移動がある。
 とりあえず、第3幕前奏曲は、Deutsche Grammophon/POCG-2128をリファレンスにして聞くことにした。

1951年盤
 これは、DECCAの全曲盤からの抜粋である。全曲盤を聞くべし。

1963年盤
 手元にNUOVA ERA盤がないのは本当に悔しい(^^;。
 TAHA/TAH 132-135は、その迫力ではなかなかだが、少し埃っぽい音で、原テープの劣化が第1幕前奏曲よりも気になる出来となっている。弱音が多い楽曲のためと考えられるが、これはかなり聞き難かった。音が、同じ質で一定しない。エアチェックテープのチューナーとの同期が万全ではなかったときのような、砂埃のような音のにじみもある。
 ARKADIA盤の方が、TAHRA盤よりも自然な音で第3幕前奏曲を聞ける。音のにじみもないし、割と一定した質感。ただ、第1幕前奏曲と同じように、ナローレンジであることは否めない。これは、HUNT盤も同じ傾向の音だった。
 ENTERPRISE盤は、第1幕前奏曲と同じように、TAHRA盤の迫力と、ARKADIA盤の中間のような音で、意外なことに、これが一番良かった。多分、第1幕前奏曲でも、ENTERPRISE盤が一番マシなのだろう。録音年代を考えるなら、不満は残るが、小生手持ちの3種のCDの中では、最も安心して聞いていられる。


 小生、「ニュルンベルクのマイスタージンガー」は、全曲盤を聞くまで、実は悲劇だと思っていた(^^;。LP時代の、かなり以前の話だが。それは、この第3幕前奏曲のせいでもある。誰の演奏を聞いてそう思ったか忘れたが、第1幕前奏曲とまったく性格の違う第3幕前奏曲を聞いて、その孤独で哀しげな音楽に、「これは悲劇だ!」と恥ずかしながら思いこんでいた。

 基本的に、クナの「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第3幕前奏曲を単体で録音したものは、1928年ベルリン・フィルとのスタジオ録音、1963年NDRとのライヴ、もしくはゲネプロの2種だけだが(恐らく、放送用のゲネプロだと考えられる)、1928年盤の方がテンポが遅く、タイミングを見ても、1928年盤は7分39秒、1963年盤は6分30秒と、なんと1分以上の差がある。1951年、全曲盤からの抜粋は、6分46秒である。クナは、晩年になればテンポが遅くなる・・・ではなく、この楽曲では逆に早くなっている(^^;。
 寂寥感が強いのは1928年盤で、1963年盤は滔々と流れる河のように、寂寥感を伴った切実さよりも、厚みのある暖かな演奏になっている。もっとも、迫力は1963年盤の方が勝っており、そのダイナミックレンジの幅は、かなりの幅の広さで、豊かに流れてゆく音楽は素晴らしい。
 1928年盤、冒頭のチェロから、身を切られるような寂しさと悲しさが支配している。聞いていて、その哀切な響きにいたたまれなくなるほどで、1928年当時のクナの、これは大名演だろう。ゆったりと、沈み込むようにザックスの悩みの音楽が、孤独感を持って表出される。ところどころ、オーケストラに大時代的なずり上げやポルタメントが聞こえるが、これは、当時のベルリン・フィルとしては、当たり前の個性なのだろう。クナはその辺りには拘泥しなかったようで、メロディの流れと、各楽器の厚みに気を配りながら指揮をしていたものと思われる。フルトヴェングラーの後年のスタジオ録音(rec.1950/2/1)と比べると、まったく違うテンペラメントに驚かされた。最後まで、粘り気味のゆったりとしたテンポは変わらず、真摯な第3幕前奏曲の演奏だった。
 1963年盤も、名演であることには変わらない。第3幕前奏曲では、クナの解釈が1928年当時とはかなり変わったかのように思えるし、1950/51年の全曲盤の流れからすると、クナの音楽としては自然な発展にも聞こえる。最初の、チェロのユニゾンでのメロディは、どこか深淵をのぞき込ませるような演奏で、他の弦楽器が上声部でメロディを奏でるまで、ぞっとする響きだ。音楽は、低弦域ではもだえるようにうごめいているが段々と明るさを増してゆく。金管楽器の豊かな響きは自信に満ちているようだ。鳥の鳴き声の模倣から、ヴァイオリンが徐々に哀しげな上昇音階を奏で、さらに、金管楽器がマイスターの誇りを現すかのような音楽を奏でる。そして、えぐるような弦楽器の強奏では、クナの足音一発、音楽を聞いている空間を一変させる。最後、メロディは流れが悪いようにギクシャクと進行するが、オペラの音楽の上では、美しく流れる演奏よりも、クナの解釈の方が正しい。素晴らしい、第3幕前奏曲だ。

 金管楽器での表現はまったく異なるし、呼吸感もまるで違うものの、フルトヴェングラー(1950/2/1)と、トスカニーニ盤(rec.1937/8/8、1951/11/26)を聞いてみたら、メロディの横のつながりより、各フレーズを大切にしているということでは、その情感ではトスカニーニの方に近いような気がする。フルトヴェングラーは、第3幕前奏曲でも、音楽を勢いの乗せているようであり、その有機的な横のつながり、うねるような音楽の情感は素晴らしいが、トスカニーニやクナを聞いた後では、「ちょっと、違う」と感じてしまった。うねる箇所が違うのだ。透明感が違うと言ってもいいかも知れない。むろん、トスカニーニやクナの方が透明度が高い。後半に入る前に、弦楽器が残酷な響きをたてる箇所では、トスカニーニやクナは、えぐるように演奏させるが、フルトヴェングラー盤では、まるで何かを両断するような響きで、違和感が残った。
 ただ、フルトヴェングラーでは、1943年8月のバイロイト・ライヴはさすがに凄く、そのゆったりとしたメロディの歌わせ方、悲劇味の強い低弦域の動きには、フルトヴェングラーの同曲への共感が体感でき、極めて感動的な第3幕前奏曲を聞くことができた。

 何はともあれ、クナの1928年盤、1963年盤とも、第3幕前奏曲のひじょうな名演である。オペラ全曲を離れた単体としても、聞く価値は非常に高いと思う。


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