クナを聞く 第90回b
ワーグナー:「パルジファル」1959年
Richard Wagner
Parsifal
Amfortas...Eberhard Wächter
Titurel...Josef Greindl
Gurnemanz...Jerome Hines
Parsifal...Hans Beirer
Klingsor...Toni Blankenheim
Kundly...Martha Mödl
Hans Knappertsbusch
Chor und Orchester der Bayreuther Festspiele
Chormeister:Wihelm Pitz
(rec.1959/8/7 L)
Golden Melodram/GM 1.0070(Slovenia)4CDs
交響曲や管弦楽曲ならいざ知らず、正規盤は1951年と1962年のものだけとは言え、よくぞこれだけリリースされたものだと思う。聞く方はある意味大変だが、小生は10種類の「パルジファル」を聞き、その体験は大きな宝物となっている。
Golden Melodramの自己診断では、Distortionが1で、Soundは5だ。と言うことは、「多少の音の歪みはあるが、充分聞ける音」という意味に理解できる。で、実際に聞いてみると、これがなかなか音がよい。残念ながら、CD4枚にわたる全曲を聞いている時間はないが、オーディエンスノイズ(だれだ、前奏曲で「プハ!」なんて息を吐き出しているのは)も生々しく、よくぞこれだけの音源が眠っていたものだと感嘆する。
キャストは1958年盤とほとんど同じだが、クンドリをマルタ・メードルが歌っている。次の年の1960年盤とは、パルジファルのハンス・バイラーだけが同じで、他のキャストは入れ替わっている。
深い呼吸を感じる前奏曲から、すでに聞き手は「パルジファル」の世界に連れてゆかれてしまう。歌手では、グルネマンツを歌うジェローム・ハインズから、すでに良い。アンフォルタスのエバーハルト・ウェヒターにも好感が持てる。クンドリのメードルは、貫禄充分、メードルのクンドリを聞けただけでも、小生満足してしまう(^^;。第1幕から、さすがに他のクンドリを歌う歌手を寄せ付けない見事さだ。パルジファルのハンス・バイラーは、1958年と同様、コントロールされていない長めのヴィヴラートが気にならないではないが、1958年盤よりも違和感は少ない。バイラーのパルジファルは、1958年から1960年までの3年間では、やはり1960年盤が最も聞き応えはあるが、1959年盤でも健闘している。
第一幕舞台転換の音楽での強奏も音が混濁せず、モノラルながらなかなか分離のいい音で、ステージの暗ノイズも生々しく好感が持てる。クナでしか聞き得ない類の素晴らしい迫力と感涙物の舞台転換の音楽が聞ける。
第二幕、クリングゾルのトニ・ブランケンハイムは性格俳優のようで、グスタフ・ナイトリンガーやヘルマン・ウーデのような凄みには乏しいものの、そのハンサムないやらしさがしっかり出ていて、なかなか素晴らしい。それでも、第二幕での聞き物は、やはりメードルのクンドリだろう。パルジファルを誘惑するメードルの呼吸は素晴らしく、まるで夢見るようで、1958年と1960年にクンドリを歌ったクレスパンも良かったが、メードルの大歌手ぶりが際立っている。「幼子のあなたが・・・」も、ごく自然に歌われながらも、説得力のある歌唱を聞かせてくれる。バイラーも、コントロールの効いていないヴィヴラートは相変わらずながら悪くはない。クンドリの誘惑の場面から、リアリティのあるパルジファルの苦悩を聞かせてくれる。アンフォルタスとの共悩を悟る場面からもなかなかよかった。
第三幕もジェローム・ハインズ、バイラーともに素晴らしい。聖金曜日の音楽はやはり感動的だ。なにより、クナによる暖かな血の通った聖金曜日の音楽が聞ける。ここでは、バイラーの熱唱が実に素晴らしい。ハインズの落ち着いた歌声も、1958年盤よりもかなり共感を持って聞くことができた。重い足取りの第三幕の舞台転換の音楽の素晴らしさはいうまでもないが、ウェヒターのアンフォルタスも1958年盤よりも随分と出来がよい。若々しく瑞々しい声で、悲しみと苦しみの淵でもだえ苦しむ青年王アンフォルタスを好演している。クナのゆったりとしたテンポにも違和感がない。総じて、1958年盤の不調を挽回する歌唱をどの歌手も聞かせてくれる。
1959年盤は、聴き応えのある感動的な「パルジファル」だった。クナファンには感涙物の初出音源である。
さらに、この1959年盤の良いところは、長い第一幕を2枚のCDに分けるのは仕方ないにしても、第二幕を3枚目に、第三幕を4枚目にしっかり収められているところだ。CDの収録時間が決まっている以上、「パルジファル」においては理想的な収録の仕方だろう。詳しくは、「クナを聞く」でさらにこの1959年盤を取りあげてみたい。
なお、吉田光司著「Hans Knappertsbusch Discography」(キング・インターナショナル刊)によると、カラヤンの1961年盤「パルジファル」1枚目のCDは、このクナ1959年盤と差し替えられていたと書かれている。カラヤン盤はArkadia盤でもBMGのCDでもそうだったそうだ。小生も、カラヤンの「パルジファル」BMG盤は持っているため、聞き比べてみた。実は、小生のBMG盤は、カラヤンの真正な演奏に差し替えられた後のCDだと思っていたら、違った(^^;。グルネマンツがハインズの声だ。何を聞いていたんだろう?クナの今回の1959年盤と同じ演奏だ。カラヤン盤のグルネマンツはハンス・ホッターで、これは間違えようがない。BMG盤は、1枚目と2枚目のCDでグルネマンツの声が変わる(^^;。
ところが、その音の違い!聞き比べていて、BMG盤の音の悪さに閉口してしまった。Golden Melodram盤に布団でもかぶせたような音だった(^^;。

74321 61950 2
BMG/74321 61950 2(USA)4CDs