クナを聞く 第115回
ブルックナー編その4−1 交響曲第7番


 クナは、それほど頻繁にはブルックナー:交響曲第7番を指揮したわけではなさそうだ。Hans Knappertsbusch Concert Registerを見ると、記録に残っているものは以下のようになる。

 そのうち、録音が残っているものは最後に2つ、ザルツブルク音楽祭での1949年8月30日のライヴ録音、1963年5月10日ケルン放送交響楽団とのライブ録音だ。1949年から1963年まで、14年もクナはブルックナー:交響曲第7番を指揮者しなかったことになる。

 ブルックナーの生涯を読んでみたが、まるで面白くなかった。生真面目で叩かれやすい性格、安定への指向、権威者への媚びが伺え、その人物のどこに壮大で後年小生を酔いしれさせる交響曲を作曲する能力があったのか、まるで想像できない。
 ブルックナーは交響曲第7番の成功や、その生涯の最後にウィーン大学の名誉教授になることができたが、例えば同時代のワーグナー、ブラームス、マーラーなどと比べると、いかにもその生涯は面白みは少ない。逆に面白かったら、生きているその当人は大変だが、後代に生きている者は、尊敬する作曲家の生涯を俯瞰する時、あるていどの波瀾万丈さを期待してしまうのは仕方がないことか(^^;。
 ブルックナーは、42歳で初めて交響曲第1番を完成させた。その後は取り憑かれたように生涯の最後まで、交響曲の作曲、その改訂についやされる。
 しかし、ブルックナーの交響曲作品ではほとんどの作品がコンサートに乗らなかったり、不評だったりした。コンサートで成功したのは交響曲第7番だけだった。ほとんどの有力な指揮者に冷笑を持って迎えられたり、無視されたブルックナーの交響曲作品だったが、アルトゥール・ニキシュが交響曲第7番に関心を示した。ニキシュは1884年、ブルックナーが60歳になったときにライプツィヒで初演し、成功した。翌年、ヘルマン・レヴィがミュンヘンで演奏し、ブルックナーの交響曲では唯一コンサートで成功する曲目になった。
 コンサートに乗せたい、あるいはスコアを出版したいという、ブルックナー本人や取り巻きたちの意志から執拗に繰り返された改訂作業を、交響曲第7番はその成功のおかげで、ある程度免れることができた。第2楽章のクライマックスで派手に打ち鳴らされるティンパニーやシンバルには議論があるものの、第5番や第8番に見られるような、ブルックナーが元々書いたスコアからの大幅な改変はなかった。
 成功を勝ち得ても、ブルックナーは有頂天になったり、その成功をバネに社会的地位を向上させようという意志はなかったようだ。ブルックナーは安定志向の強い・・・というか冒険できない体質だったらしい。
 ブルックナーの生涯は地味だった。

 小生がブルックナーの演奏録音を熱心に聞き始めたのは、ブルックナー:交響曲第7番からだった。最初の第7番の体験は、NHKのテレビでベルナルト・ハイティンク指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団のコンサートの模様が流れ、その第2楽章だ(全曲演奏されたと思うが、やけに長かったその部分しか覚えていない)。
 ただし、覚えているのは纏綿と続く情緒的な音楽と、モノクロテレビで見たことだけだ。そのときの印象もあり、かなり後年に、カラヤンのドイツ・グラモフォンへの全集版交響曲第7番のLPを買った。2枚組で「ジークフリート牧歌」とカップリングされていたっけ。
 第7番のカラヤンDG全集盤をのめりこむように聞くまでにも、これは以前どこかに書いたことだが、ブルックナー:交響曲第8番、第3番、第4番などはすでにLPで聞いていた。高校生から大学生くらいの頃で、ブルックナーの交響曲のよさがさっぱり理解できなかった。
 第8番はフルトヴェングラーの1944年の録音で、日本コロンビア盤の2枚組だった。第3番、第4番はベームのDECCA録音だった。
 今聞いてみるとフルトヴェングラーのライヴ録音は実に面白いが、初めて聞いた当時は繰り返しの多い、唐突に曲想が変化する音楽に、ワーグナーがつけた「オーストリアの田舎者の音楽」というレッテルがなるほどと思えた。第3番、第4番は、小生をベーム嫌いにさせた元凶のような録音で、この名盤の誉れ高い録音、ベームとも結局馴染めなかった。実は、一部の音楽を除いて、小生はいまだにベームの演奏録音に馴染めていない。
 長い間、ブルックナーを聞かない日々が続いたが、前述の通り、カラヤンのドイツ・グラモフォンへのDG全集盤の第7番をきっかけに、さまざまな指揮者によるブルックナー:交響曲第7番を聞き始めた。
 今まで、おびただしい第7番の演奏録音を聞いてきたが、もっとも印象に残っていて、現在も小生のベストチョイスの演奏録音は、ロヴロ・フォン・マタチッチ指揮チェコ・フィルハーモニー管弦楽団のスタジオ録音と、オットー・クレンペラー指揮フィルハーモニア管弦楽団のスタジオ録音だ。マタチッチ盤はその弦の美しさでは比類がないほどで、今まで聞いた中で、もっとも美しい第7番のひとつである。クレンペラー盤は即物的すぎて情緒がないとか、「オーケストラが緩い」とかいわれがちだが、その緩さが小生どういうわけかたまらなく好きで、弦楽器の濡れたような質感も大好きだ。あまり人気のないクレンペラー盤が好きだというのは変わり者か(^^;;;;。今回改めて聞き直してみて、ずばりブルックナー:交響曲第7番の本質を突いた名演である。
 その他、人見記念講堂でのヨッフム指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団のテレビの放映に酔いしれたり、朝比奈隆の聖フリーリアンと、東京カテドラルでのライヴ録音、シューリヒト指揮ハーグ・フィルのコンサート・ホール盤など、ブルックナー:交響曲第7番には思い出が多い。CD初期の頃は、シャイー指揮ベルリン放送交響楽団盤(DECCA)、ブロムシュテット指揮ドレスデン・シュターツカペレ盤(Denon)、シューリヒト指揮ハーグ・フィル盤(日本コロンビア)くらいしかCD屋の棚にはなかったか。値段を見ると、シャイー盤3,500円、ブロムシュテット盤3,300円、シューリヒト盤3,000円と、今にして思えば驚愕の値段だ(^^;。
 小生は、クナのブルックナー:交響曲第7番に長い間慣れることができなかった。
 ところが、現在の最フェヴァリッツが、クナ1949年のライヴ録音になってしまっている。 ここ数日さまざまな指揮者の交響曲第7番を聞いていて、以前の印象がガラガラと崩れてしまったのだ。
 クナの1949年盤はテンポが速く、情緒纏綿とした音楽にはなっていない。その素っ気なさからか、巷間あまり人気のない演奏だし、実は小生もあまり好きな演奏記録ではなかったのだ。
 しかし、ここしばらく、クナの1949年盤を繰り返し聞くうちに、クナがこの交響曲でもたらそうとしていた響き、その巨大な岩にぶち当たるような感触を理解できるようになった。
 その結果、さまざまな指揮者による演奏録音が、どれもこれも情緒に寄りかかりすぎた、ぬるま湯的な演奏に聞こえるようになってしまった。げに、慣れとは恐ろしい(^^;。

 取りあえず、演奏の詳細に入る前に、例によってCDの整理。
 2種類の演奏記録のタイミングは以下の通り。


第1楽章第2楽章第3楽章第4楽章
1949年20'02"20'31"9'27"12'23"
1963年19'51"19'36"11'42"14'16"

4004
ARPCD 0046
CDGI 712.1
CACD 5.00193 f
C37-7921
GM 4.0008
IDIS 316
KICC-2155
CD-209
CD-1028
90408
Wiener Philharmoniker
(rec.1949/8/30 L)

Adagio Classics/4004(Holland)
Archipel/ARPCD 0046(Germany)4CDs
Arkadia/CDGI 712.1(Italy)
Cantus Classics/CACD 5.00190 F(Germany)2CDs
Denon/C37-7921(Japan)
Golden Melodram/GM 4.0008(Italy)7CDs
Istituto Discografico Italiano/IDIS 316(Italy)
King Seven Seas/KICC-2155(Japan)
Music & Arts/CD-209(USA)
Music & Arts/CD-1028(USA)6CDs
Preiser/90408(Austria)
 11種類もあるとは思わなかった。Arkadiaでは、その前身のHunt盤もあるので、知っているものは12種類ということになる。
 Music & Artsが元になっているCDが多く、Denon盤はMusic & Artsになる前のThe Bruno Walter Society盤だし、King Seven Seas盤はMusic & Artsからライセンスを得ている。

DR910013-2
LS 1015
KICC-2409
GM 4.0064
WDR Sinfonieorchester Köln
(rec.1963/5/10 L)

Disques Refrain/DR910013-2(Canada-Japan)2CDs
Living Stage/LS 1015(Italy)
King Seven Seas/KICC-2409(Japan)
Golden Melodram/GM 4.0064(EC)3CDs
 クナ最晩年のライヴにしては、テンポが結構速い。クナの、ブルックナー:交響曲第7番でとらえていたテンポなのだろう。
 Disques Refrain盤はカナダの私書箱がジャケットに書いてあるが、日本製のようである。小生は大阪のとあるCD屋でこの第7番が含まれたDisques Refrain盤3種を購入、クナのCDをできるだけ蒐集しようと考えたきっかけになっただけに、音は悪くても愛着がある。ジャケットも、ヨーロッパの実験的なロックのようでかっこよかった。
 ところが、このDisques Refrain盤、2枚組でブラームス:交響曲第3番(rec.1962/5/14)、ハイドンの主題による変奏曲(1963/5/10)がカップリングされているのだが、CDの表面はブルックナーとブラームスが逆に印刷されている。すなわち、ブルックナー:交響曲第7番と印刷されている方にブラームスが、ブラームス:交響曲第3番と印刷されている方にブルックナー:交響曲第7番が録音されいるのだ。良品があるのかどうか知らないが、CDをプレーヤーに入れようとして、いつも間違えてしまう(^^;;;;。

 次回、ブルックナー:交響曲第7番の1949年ザルツブルク音楽祭での録音を取りあげる。