クナを聞く 第134回
ヨハン・シュトラウスU世1−7 1957年Deccaスタジオ録音


1957/10 Wiener Philharmoniker
Annen Polka OP.117

KICC-2103
KICC-8517
KICC-8935
440 624-2
King Recors/KICC-2103(Japan)
King Recors/KICC-8517(Japan)
King Record/KICC-8935/6(Japan)2CDs
Decca/440 624-2(England)2CDs

Accelerationnen Waltz Op.234

KICC-2103
KICC-8517
KICC-8935
440 624-2
UCCD-70242
King Recors/KICC-2103(Japan)
King Recors/KICC-8517(Japan)
King Record/KICC-8935/6(Japan)2CDs
Decca/440 624-2(England)2CDs
Univarsal/UCCD-7024(Japan)

Tritsch-Trarsch Polka Op.214

KICC-2103
KICC-8517
KICC-8935
440 624-2
UCCD-70242
King Recors/KICC-2103(Japan)
King Recors/KICC-8517(Japan)
King Record/KICC-8935/6(Japan)2CDs
Decca/440 624-2(England)2CDs
Univarsal/UCCD-7024(Japan)

Leichtes Blut Polka OP.319

KICC-2103
440 624-2
King Recors/KICC-2103(Japan)
Decca/440 624-2(England)

G'schichten aus dem Wienerwald Waltz Op.325

KICC-2103
KICC-8517
KICC-8935
440 624-2
King Recors/KICC-2103(Japan)
King Recors/KICC-8517(Japan)
King Record/KICC-8935/6(Japan)2CDs
Decca/440 624-2(England)2CDs
 「ウィーンの休日」と題された1957年にステレオで収録されたDeccaスタジオ録音である。ウィーン・フィルのニュー・イヤー・コンサートのライヴが毎年のように音盤化されるまで、クナとウィーンフィルによる「ウィーンの休日」はステレオでのウィンナ・ワルツの定盤のような趣だった(モノラルではクレメンス・クラウスの1950年から1952年にかけて録音されたDeccaの名盤がある)。小生は20歳代の頃、ウィンナ・ワルツなどほとんど聞かなかったのに、クナのウィンナ・ワルツのLPと、フリッツ・ライナー指揮シカゴ交響楽団のLPだけは持っていた。
 ただ、ウィーン・フィルのウィンナ・ワルツは今でこそ当たり前の印象を受けるが、面白いのはクレメンス・クラウスが1939年にニュー・イヤー・コンサートを始め、定着させるまで、ウィーン・フィルは必ずしもウィンナ・ワルツの演奏には積極的でなかったということか。恐らく現在でも、ウィーン・フィルはウィンナ・ワルツを演奏する機会はそれほど多くはないのではないかと思える。ウィーン・フィルは国立歌劇場管弦楽団としての活動が主舞台で、コンサート・オーケストラとしての活動はその余技のようなところがあり、ウィンナ・ワルツは主に舞踏会専門のオーケストラによって演奏されていた。
 クナの1957年「ウィーンの休日」に収録された曲目は以下の通り。CDの収録曲により、ウェーバー:「舞踏への勧誘」、ニコライ:「ウィンザーの陽気な女房たち」序曲、シューベルト:軍隊行進曲はも同じ括りで録音されたと錯覚してしまうが、これらは1960年の録音で、チャイコフスキー:「くるみ割り人形」組曲とともに、別の機会に録音されたものだ。  今までリリースされたCDは5種類まで確認できているが、日本のキング・レコード、ポリグラムは再発の嵐だったので、これらの他にも出ていた可能性がある。恐らく全ては追いかけ切れていない。
 また、ヨハン・シュトラウスU世の楽曲は全部で5曲だが、全てのCDで全ての楽曲が収録されているわけではない。「加速度」で各CDの音を比較してみた。  ヨハン・シュトラウスU世の楽曲5曲が収録されているのは、King Recors/KICC-2103とDecca/440 624-2だけだった。他のキング・レコード盤から、なぜ「浮気心」だけが飛ばされたのかよく分からない。多少、他のCDの方が音がいいかな?とも感じるが、今回は古いKing Recors/KICC-2103をリファレンスに選ぶことにした。多少古めかしいが、ヨハン・シュトラウスの楽曲5曲を聞けるのはありがたい。

アンネン・ポルカ
 クナの1957年だけではなく、全てのウィンナ・ワルツやポルカではテンポが他の指揮者のものより落ち着いていて、ゆったりとそのメロディと進行を聞くことができる。アンネン・ポルカでも、リハーサルをしたのかどうか分からないが、そのテンポ感とフレーズごとに解決をさせてゆく呼吸感はクナのものである。1957年当時のウィーン・フィルの質朴とした響きと味わいが堪能できる。バックに流れるバグ・パイプを模した響きも鄙びていて、けっこうエッジの聞いた演奏ながら、思わず顔がほころんでしまう(^^)。

加速度
カルロス・クライバーの1989年ウィーン・フィルのニュー・イヤー・コンサートでも収録されているが、クナの演奏と聞き比べると、まるで別の感興が味わえ、面白い。序奏部で「合っているのか?」と思える箇所もあるが、実に馥郁として、蒸気の泡が愛らしく立ち上ってゆくかのようである。古き良き時代の、幸福な情景が目に浮かぶようなほのぼのとした質感だ。クナの、横の線の起伏を最大限に引きだし、魔術のように各楽器が肉付けされてゆく様は実に悦ばしげで楽しい。途中で編集の跡が分かるが、まるで気にならない。ゆったりと、身を委ねていたくなるような、夢見るような演奏である。さらに、クナ特有の透明度は健在で、「あれ?ここでこの楽器が鳴っているのか」という発見も随所でできる。その早書きのワルツであることが信じられないくらい、魅力に充ちたメロディが際立っている。クナの演奏は今までおびただしく聞いてきた「加速度」の、最も魅力的な演奏のひとつである。

トリッチ・トラッチ・ポルカ
 鞭の音が懐かしい、昔の運動会でよく流れていたことを思い出す。本来は女性の凄まじい「おしゃべり」を題材にしているらしいが、クナの手にかかると、その「おしゃべり」が実に楽しく、愛らしく感じられる。

浮気心
 実に楽しい「浮気心」である。沸き立ち、勢いで押しまくる「浮気心」ではなく、クナは愛情を込めてそのメロディを奏でてゆく。そのダイナミックスの変化の仕方は実に素晴らしく、「浮気心」というコケティッシュな題材のポルカから、ユーモアと微笑みたくなるような楽しさを引きだしている。

ウィーンの森の物語
 クナのそれまでの「ウィーンの森の物語」ではなく、オーソドックスなオーケストレーションのスコアで演奏されている。序奏部もしっかりと演奏されている。序奏部の華やかさから、弦楽器でのツィターの調べを弾き出すような展開など、実に美しい。最近のグローバル・スタンダードなオーケストラの響きではなく、どこかくすんだ古いウィーン・フィルの魅力が余すところなく聞ける。チェロの響きの鄙びていて魅力的なこと!
 ツィターの響きもゆったりと情緒タップリで素晴らしい。
 ワルツの主部に入り、クナはゆったりと「ウィーンの森の物語」を紡いでゆく。透明感のある響きとDecca特有の音が素晴らしい時間を約束してくれる。クナはモザイクのように楽曲のフレーズを膨らませながら積み重ね、その積み重ね方に間違いがないかのように巨大な音楽を形作ってゆくが、ウィンナ・ワルツのような、それほど深刻ではない楽曲でも、その音楽の作り方は一貫していて、それがクナのウィンナ・ワルツを聞く時の大きな魅力になっている。軽いはずの「ウィーンの森の物語」が、優れて魅力的な巨大な音楽になって行く。クナを聞くときの独特の時間感覚というのか、その響きに包まれながら、めくるめくような音楽の進行を聞いていると、他の指揮者では絶対に体験できない、楽曲に注ぐ愛情に溢れた情感とスケールの大きな音楽を聞くことができる。

 クナのウィンナ・ワルツは別格である。クレメンス・クラウスのウィンナ・ワルツも小生好きでよく聞くが、ウィリー・ボスコフスキーがウィーン・フィルとDeccaに残したシュトラウス・ファミリー全集では、すでにオーケストラの音がかなり違っている。グローバルな音になってはいるが、クレメンス・クラウスやクナの残したウィンナ・ワルツの鄙びて、しかも馥郁とした響きとはかなり異なってしまっている。これは、カラヤンというフィルターを通す前と通した後の違いだろうか?と考え込んでしまった。もっとも、ヨゼフ・クリップスの1957年から1960年にかけての録音のように(Decca)、クラウスやクナともまた違う歯切れのいい元気な演奏を聞くこともできるが(^^;。
 クナのDeccaスタジオ録音から、現代から失われてしまったウィーン・フィルの質朴とした響きと、フレーズの意味を次々と開陳してゆくような音楽の捉え方を聞くことができる。クナDeccaスタジオ録音は文句なく是非盤である・・・というより、1928年からのクナによるウィンナ・ワルツはどれも傾聴に値する優れた演奏記録である。例えば、「コウモリ」序曲、「加速度」、「ウィーンの森の物語」など、どれをとってもウィンナ・ワルツを聞く時、小生にとってはクナの演奏記録が最上の録音になってしまう。
 クナ以外にもむろん優れて楽しいウィンナ・ワルツのアルバムは多いが、フェレンツ・フリッチャイ指揮ベルリン放送交響楽団のアルバム(DG)が、曲によっては気の抜けたサイダーのように聞こえるが、実に面白かった。「コウモリ」序曲でのテンポの遅さ、「トリッチ・トラッチ・ポルカ」の勇ましさ(^^;、「美しく青きドナウ」も個性的な名演である。
 あと、サロン・オーケストラで小振りにアレンジしたウィンナ・ワルツが聞けるが、これもまた楽しい。さらに小生はシュランメルの音楽が異常に好きだったりする(^^;;;;。

 次回から、ブラームスの音楽を取りあげる。