クナを聞く 第159回
ヨハネス・ブラームス9 アルト・ラプソディ
1957/5 Alt-Rhapsodie(DECCA Recording)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
Wiener Academy Male Voice Choir
Wiener Philharmoniker
Arlecchino/ARLA98-A102(Italy)5CDs
Golden Melodram/GM 4.0039(Itaky)4CDs
King Record/KICC-2102(Japan)
Living Stage/LS 1011(Otaly)2CDs
Universal/470 254-2(Germany)
「アルト・ラプソディ」はブラームスの楽曲の中でも地味で、あまり一般的ではないかも知れない。さまざまな演奏録音もそれほど多いとは思えない。むろん、ブラームスなだけにそこそこはリリースされているとは思うが。一般的ではないと言っても、この楽曲の熱狂的なファンの方は結構おられるようだ。その酔うような暗い世界、やがて男声合唱が入り、神を希求する宗教的な法悦感に至るまでのドラマは、短い楽曲とはいえ、なかなか聞き応えがある。
「アルト・ラプソディ」の歌詞は、ゲーテの「ハルツの冬の旅」第5から第7編にかけてが使用されている。ブラームスがゲーテの詩に関心を寄せ、作曲を思い立ったのは失恋が元であったそうだ。クララ・シューマンの三女ユーリエ・シューマンへの失恋のためだったという。ユーリエもその母クララも、ブラームスの気持ちを知らず、ユーリエは他の男性と結婚してしまった。ブラームスはその時の傷心をゲーテの詩が代弁していることを知り、「アルト・ラプソディ」を作曲したのだそうだ。
「ハルツの冬の旅」はゲーテが自作の愛読者プレッシングの孤独感を慰めにハルツに旅行したことをきっかけに書かれた。ゲーテのハルツへの旅行は、鉱山経営を行っていたゲーテの現地視察の意味もあったらしい。
クナのCDの手持ちは現在5種類だが、「Hans Knappertsbusch Discography」(吉田光司著キング・インターナショナル刊)によると、他にKing Recordから、K30Y 1031が出ている。ステレオ録音である。
それぞれのCDの比較。
- Arlecchino/ARLA98-A102
DECCAのステレオ録音そのままの音。安心して聞いていられる。ホワイトノイズはあるが、気にならないレヴェル。サーフェスノイズのような超低域でのノイズが聞こえる。ただ、スクラッチノイズやピチパチノイズは聞こえないのでLPからの板起こしかどうかは分からなかった。LPからの板起こしだったら、羨ましいほどの盤面クオリティだ。少し左右への分離が不安定。 - Golden Melodram/GM 4.0039
モノラルで収録されている。帯域も狭く、他のステレオでのCDのような深々とした低域には欠ける。 - King Record/KICC-2102
立派な音だ。左右への分離も安定していて、Arlecchino盤よりも随分と近年の録音に聞こえる。素晴らしい音だ。ルクレティア・ウェストのアルトもピンポイントで定位する。 - Living Stage/LS 1011
モノラルで収録。Golden Melodram盤をコンプレッサーで増幅させたような音。周回ノイズが少し聞こえるので、モノラルでリリースされたLPからの板起こしか。その分、ノイズも増えている。かなり迫力はあるが、やはりステレオで聞くべきだろう。少し音が不安定である。 - Universal/470 254-2
King Record盤と同じように安定感のある音、ステレオ感だ。ホワイトノイズは少し多めだが、気にならないレヴェル。音の幅が拡がったような気もするが、24bitのためか、各楽音の音が少し太くなっている。
あまりよく聞く楽曲ではないので、クレンペラーのEMI盤と聞き比べてみた。クレンペラーの冒頭部は凄い。いきなり孤独の淵にたたき込まれるような強烈な音が聞ける。対してクナ盤のフレージングは柔らかく、暖かな闇に包まれるような冒頭部になっている。
アルト=メゾソプラノが出てからは、歌手の実力はクレンペラー盤のクリスタ・ルードウィッヒがやはり勝ってしまう。ウェストの歌唱も魅力的なのだが、ヴィヴラートのコントロールではルードウィッヒが絶妙だ。ルードウィッヒはドイツ語のコントロールも素晴らしく、さすがの歌唱を聞かせてくれる。ウェストは絶えず打ち震えるような細かなヴィヴラートが多少気になる。ただ、威圧的ではなく、暖かな歌声ではウェストの方がよい。
楽曲の進行に関しては、クレンペラーはやはりドライで、あれよあれよという間に進行してしまう。第1部は最初威圧的に、そしてルードウィッヒの歌が出てからも、暗闇を想像しながら聞くというより、どこか光が差し込んでいるような管弦楽の響きになっている。
クナはじっくりと腰を割った響きで、第1部に当たる暗い深部を彷徨うようなやりきれない侘びしさがよく出ている。クナ盤、クレンペラー盤とも優れた演奏録音だが、クナ盤の楽曲の描き方は実にその闇の暗さをよく表現している。低弦域のえぐり方もクナはやはりうねるようで、暖かで優しいのにその楽曲の性格がよく出ていると言える。
第2部に当たる男声合唱が出てからも、クレンペラーはハードボイルドな有無を言わせぬ宗教曲のような趣であるのに対し、クナはゆったりとした響きでオペラティックである。どちらがいいか?ではなく、クレンペラーとクナの個性が際立って異なり、この聞き比べはなかなか面白い。クレンペラー盤でのルードウィッヒの表現力はさすがに凄い。クレンペラーのモーツァルト「レクイエム」が聞きたかった(録音はない)と思わせる演奏である。
弦楽器の歌わせ方や、木管楽器の響かせ方、低弦域の扱いなど、オーケストラの違いよりも指揮者の響かせたい音の差が出ていて興味深い。
第3部にあたる箇所では、その盛り上がり方はクレンペラーの法悦感で聞き手に厳しく対峙するのに対し、クナの優しい敬虔な祈りのような響きで聞く者を包み込んでゆく。ウェストは黒人歌手だからか、説得力の強いスピリチュアルな感覚が素晴らしい。
「アルト・ラプソディ」という楽曲に浸り込めるようにして聞くには、クナ盤が圧倒的な描写力で素晴らしかった。クレンペラー盤はその楽曲の巨大な表面を畏敬の念を持って眺めているような感覚であるのに対し、クナ盤は楽曲の中で呼吸ができるというか、楽曲の中に入り込んで、心の中にヒタヒタとした感動に浸れるような演奏だった。クナはやっぱり優しい。
クナ盤14'18"に対し、クレンペラー盤は12'28"だった。
| 参 考 |
|---|

Crista Ludiwig(ms)
Otto Klemperer
Philharmona Orchestra & Choir
(rec.1962/3 S)
EMI/7243 5 67029 2 9(England)




