クナを聞く 第160回
チャイコフスキー:「くるみ割り人形」組曲
クナのチャイコフスキーは珍しい。レパートリーは、「くるみ割り人形」組曲、交響曲第5番、交響曲第6番「悲愴」がほとんどだが、けっこうコンサートでは振っていたりする。Hans Knappeetsbusch Concert Registerの記録を見ると、チャイコフスキーを振った記録は曲目毎には以下のようになる。
なお、第2次大戦終結時の1945年の記録は、残念ながらいまのところ曲名は分かっていない。
- 1945/8/31 Bayerisches Staatsorchester
- 1945/9/1 Bayerisches Staatsorchester
- 1945/9/2 Bayerisches Staatsorchester
- "Der Nussknacker"-suite 1949/3/26 Wiener Philharmoniker
- "Der Nussknacker"-suite 1949/3/27 Wiener Philharmoniker
- "Der Nussknacker"-suite 1949/3/28 Wiener Philharmoniker
- "Der Nussknacker"-suite 1949/5/4 Münchener Philharmoniker
- "Der Nussknacker"-suite 1949/5/5 Münchener Philharmoniker
- "Der Nussknacker"-suite 1949/5/6 Münchener Philharmoniker
- "Der Nussknacker"-suite 1950/2/2 Berliner Philharmoniker
- "Der Nussknacker"-suite 1955/1/9 Münchener Philharmoniker
- "Der Nussknacker"-suite 1956/4/11 Berliner Philharmoniker
- "Der Nussknacker"-suite 1960/1/6 Münchener Philharmoniker
- Konzert für Klavier und Orchester Nr.1 1941/4/2 Berliner Philharmoniker Julian von Karolyi (p)
- Symphonie Nr.5 1940/2/7 Berliner Philharmoniker
- Symphonie Nr.5 1940/2/24 Wiener Philharmoniker
- Symphonie Nr.5 1949/4/6 Wiener Symphoniker
- Symphonie Nr.5 1949/4/7 Wiener Symphoniker
- Symphonie Nr.5 1949/5/4 Münchener Philharmoniker
- Symphonie Nr.5 1949/5/5 Münchener Philharmoniker
- Symphonie Nr.5 1949/5/6 Münchener Philharmoniker
- Symphonie Nr.5 1955/2/12 Orchestre de la Société des Concerts du Conservatoire de Paris
- Symphonie Nr.5 1955/2/13 Orchestre de la Société des Concerts du Conservatoire de Paris
- Symphonie Nr.6 1919/3/17Dessau
- Symphonie Nr.6 1920/11/21 Orchester der Hofkapelle Dessau
- Symphonie Nr.6 1922/9/5Dessau
- Symphonie Nr.6 1934/11/17 Wiener Philharmoniker
- Symphonie Nr.6 1934/11/18 Wiener Philharmoniker
- Symphonie Nr.6 1940/3/27 Berliner Philharmoniker
- Symphonie Nr.6 1950/2/10 Orchester der Staatskapelle Berlin
- Symphonie Nr.6 1953/4/25 Wiener Philharmoniker
- Symphonie Nr.6 1953/4/26 Wiener Philharmoniker
- Symphonie Nr.6 1954/1/3 Münchener Philharmoniker
- Symphonie Nr.6 1957/4/14 Berliner Philharmoniker
- Symphonie Nr.6 1957/4/15 Berliner Philharmoniker
- Symphonie Nr.6 1957/4/17 Berliner Philharmoniker
上記のコンサートの記録の内、録音が聞けるのは1950年2月2日、ベルリン・フィルとの「くるみ割り人形」組曲だけである。交響曲第5番や第6番「悲愴」もこれだけ振っているのだから、その記録が残っていても良さそうなものだが、いまだに聞くことはできない。
是非、どこかのレーベルが録音を発掘することを期待したい。
1950/2/2 Berliner Philharmoniker
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Serenade/SEDR-2109(Japan)
Tahra/TAH 214/215(France)2CDs
それぞれの音の比較。
- Archipel/ARPCD 0120(Germany)
なかなか優れた音である。整音はほとんどしていないようで、元のテープが優秀だったためか、モノラルながらダイナミックレンジ、Fレンジも申し分ない。暗騒音がゴロゴロしているので板起こしのサーフェスノイズかと思ったら、ティタニアパラストの外を走る車の騒音も混じっているようである。廉価盤だが優秀。
- Serenade/SEDR-2109(Japan)
音楽評論家:平林直哉氏制作のCDR。現在廃盤である。Archipel盤よりも、ほんの少しピッチが低い。音は1950年の録音で、しかもライヴだということを考えるとウルトラ級である。平林氏の入手されたテープそのままの音だそうだ。ただ、強奏では多少音の暴れがある。
- Tahra/TAH 214/215(France)2CDs
CDでは一番最初にリリースされた。Archipel盤やSerenade盤に比べると、もの凄く大人しい音。ノイズリダクションもかなりかかっているようで、突きぬけた高域はない。それでも、大人しやかながら刺激は少なく聞きやすい。
小生には、Tahra盤にコンプレッサーをかけたようなArchipel盤が良かった。Serenade盤もむろんいいのだが、少し強奏での音の暴れに辛くなる。
オーディエンスノイズが喧しいが、1曲目から大人の意識とファンタジーに溢れた演奏である。高度に確立された「くるみ割り人形」を聞くことができる。チャイコフスキーのユーモアと愉しさ、そして憂愁が見事に音化されてゆく。「おとぎ話のバレエ音楽なんだから、こんなものだろう」という発想が全くない演奏。音は渦を巻き、限界まで拡大されるような清々しさがある。
さらに、ベルリン・フィルの個性とも言えるきつめのアウフタクトと、クナの楽曲にかける愛情がしっかりと伝わってくる。クナはどういう訳か「くるみ割り人形」が好きだったようである。でないと、ここまで思い切った表現はしないだろう。
2曲目の「行進曲」のゆったりとして、それでいて迫力のあるおもちゃ箱から人形たちが群がり出てくるような音楽は実に楽しい。低域から高域まで吹き上げてゆく弦楽器も凄みがある。巨大なスケールに昇華した行進曲だ。
「こんぺい糖の踊り」では、明るい幻想の中にも力があり、「トレパーク」も大迫力で愉しい。「アラビアの踊り」での弦楽器の切なさは、いろいろ聞いた「くるみ割り人形」の演奏では、クナのものがスタジオ録音を含めて最もその情感が豊かだ。クナ独特の弦楽器のバランスが音楽を生きたものにしている。チェロの響きの豊かなこと!終盤のコントラバスの深い響きも凄い。
「中国の踊り」のブチャブチャというリズムは無骨で、クナの演奏は最もその音楽の性質をストレートに伝えている。「あし笛の踊り」でのゆったりとしたテンポの中で思いっきりよく奏される木管楽器や弦楽器のアーティキュレーションは見事と言うほかない。豊かな情感と美しすぎるほどのメロディを堪能できる。
「花のワルツ」は冒頭から既にクナマジックで、素晴らしいスケールでの豊かでチャーミングな音楽になっている。そのゆったりと重く、優しい幻想には聞き惚れてしまう。クナの足音一発、華やかなワルツは重く炸裂するかのようだ。さらに、木管楽器によるゆったりとした音楽から、哀しげでノスタルジックなメロディは、クナでしか聞きえない素晴らしい情感の音楽が聞ける。リズムは武骨のようでいて、実はそのリズムにメロディと和声をしっかりと響かせるための秘策だ。それでないと、このスケールの大きさと音楽に飲み込まれてゆくような情感は出ない。
素晴らしいライヴ録音だった。
1957 Wiener Philharmoniker(Decca Recording)
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King Record/KICC-2104(Japan)
Polygram/POCL-9764(Japan)
Mythos/NR-2055 pro(USA)
- Decca/440 624-2(Germany)
ホワイトノイズがかなり被っているが、音そのものは刺激がなく優しい。これがリファレンスでも何の文句もないCD。 - King Record/KICC-2104(Japan)
どういうわけか後発のDecca盤よりも音の分離がよく、帯域もしっかりとしている。これはなかなか良い。 - Polygram/POCL-9764(Japan)
King Record/KICC-2104の高域を更に明瞭にした印象。 - Mythos/NR-2055 pro(USA)
通常盤があったのかどうか知らない。TDKのTheolyというCDRに焼いた高級盤だそうで、値段がバカ高い。1枚1枚、手焼きをしているのだそうだ。Decca/SXL.2239からの板起こしである。
サーフェスノイズやピチパチノイズが盛大だが、これは凄い。Deccaに優秀録音といわれたLPの音がしている。倍音が豊かで、各楽器の音に芯があるものの、少し特徴的なイコライジングが気にならないでもない。凄い音だが、音楽を聞くためのリファレンスにはしにくい。
1950年盤と比較すると、クナは少し早めにテンポを取っているようである。クナの弦楽器の歌わせ方は、このスタジオ録音でも健在で、「序曲」からとろけるような情感を聞くことができる。弦楽器の刻み方をレガートにしないでしっかりと弾かせ、メロディを浮き上がらせるような弦楽器のバランスと、曇りのないアーティキュレーションは透明感を感じさせてくれる。
「行進曲」も素敵である。クナのテンポは遅くはないのだが、その重めのリズムと呼吸感がゆったりとした感興をもたらしている。木管楽器に響きが何とも言えず、素敵である。「こんぺい糖の踊り」では、暗いのに軽くてキラキラとした情感がしっとりと描かれる。「トレパーク」も落ち着いている。重く唸る低弦域が聞ける。
「アラビアの踊り」は1950年盤に比べるとかなりテンポが速く、1950年盤がしっかりとクナらしい演奏と言うなら、Deccaのスタジオ録音はスタンダードに傾いている。それでも、弦楽器のしなやかな響き、豊かなチェロ、魅力的な木管など、聞き所は多い。最後のコントラバスがあまり深くないのは残念。
「中国の踊り」の明るい愉しさ、「あし笛の踊り」のメロディの美しさを引き出す演奏は際立って素晴らしい。特に「あし笛の踊り」の美しいフルートのメロディには、胸がキュンとなってしまう。そしてそれを支える弦楽器の素晴らしい響きは何も言えないほど素敵だ。
「花のワルツ」は、恐らく同曲の録音では最も素晴らしいもののひとつだろう。ハープの豊かで甘い響き、ゆったりと始まるワルツ、哀しく透明感のあるクラリネット、華やかなワルツに拡大された時のゆったりと落ち着いた響き、続く木管楽器の優しい音色、哀しく盛り上がるチェロのメロディ…などなど、クナの「花のワルツ」の素晴らしさが堪能できる。
スタジオ録音だから、クナとウィーン・フィルは幾分落ち着いた音楽を奏でるが、このしっかりと大人の音のする「くるみ割り人形」は何度も聞いているとファンタジーが豊かで、落ち着いた魅力の虜になってしまう。「牛刀をもって鶏頭を割く」というこの演奏の評を読んだことがあるが、確かにその通りだという思う反面、クナほど愛情を持ってひとつひとつのフレーズを演奏しきった演奏も希ではないかと思う。
1950年盤と、1957年Decca録音のタイミングの比較。
| 1950年盤 | 1957年Decca盤 | |
|---|---|---|
| 序曲 | 3'29" | 3'18" |
| 行進曲 | 2'29" | 2'38" |
| こんぺい糖の踊り | 1'40" | 1'40" |
| トレパーク | 1'06" | 1'11" |
| アラビアの踊り | 3'39" | 2'42" |
| 中国の踊り | 1'04" | 1'04" |
| あし笛の踊り | 2'37" | 2'27" |
| 花のワルツ | 7'51" | 7'09" |






