クナを聞く 第161回
ツィーラー編 その1「ウィーン娘」Op.388
1940 "Weaner Mad'ln"Op.388,Wiener Philharmoniker
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Preiser/90139(Austria)
Preiser/90236(Austria)
Shinseido/EMI/SGR-8228(Japan)
ただ、この口笛はかなり年代を感じさせる。本当に、古き良き時代、懐かしの、みんなが音楽を楽しみながら演奏し、多少下手くそでも聴衆はその余技を楽しんだ…そういう時代を彷彿とさせる…ウィーン・フィルの奏者の口笛はうまいが。ロベルト・シュトルツの「ウィンナ・ワルツ大全集」(Denon)や後述のシェーンヘル指揮オーストリア放送管弦楽団盤では弦楽器が口笛のメロディを受け持っているが、実は演奏としてはこの方が好ましい。口笛では幾分生臭くなるか(^^;
むろん、古き良き時代と言っても、クナはこのSP録音当時、幸福だったとは言い難い。ナチから一時追放され、「国内亡命者」のように演奏活動を行っていた頃だ。
それでも、クナのウィンナ・ワルツは夢見るようで、そのメロディの歌わせ方、楽曲のつなぎ方が独特だ。ツィーラーの楽曲はとにかく楽しい。以前、CD雑聴記というのをやっていた頃、マックス・シェーンヘル指揮オーストリア放送管弦楽団 ツィーラー名曲集を取りあげた時にツィーラーについて触れたことがある。
クナは、ツィーラーの作品では「ウィーン市民」、「ウィーン娘」などのレパートリーを録音で残している。その演奏を聞いて、ひじょうに分かりやすくて甘く切ないメロディ、影のほとんどない明るさなどに引かれていた。聞いていて、胸がキュンとなるような憧れを含んだ楽しさを持った音楽だ。ウィンナ・ワルツやオペレッタの作曲家の作品は、みなどれも同じようなものだと言え、それはその通りだが、やはり作曲家の個性は出る。小生は、クナのウィンナ・ワルツから入り、今さまざまなウィーンの音楽を再発見しては、楽しんでいる。その中でも、ツィーラーは好きな作曲家の一人だ。
ツィーラーは、このテイチク盤の解説を書かれた保柳健氏によると、1843年ウィーンの帽子職人の一人息子として生まれたのだそうだ。帽子職人を継ぐつもりだったのが、音楽への熱が高じて、父親の援護を得てオーケストラを組織(といっても、ウィーンのサロンや舞踏会で演奏する、規模の小さなオーケストラだっただろうが)、オーストリアの軍隊の拡張と軍楽隊の必要性から(優雅だなぁ、ひとつの歩兵連隊にひとつの軍楽隊があったのだそうだ)軍楽隊に入り(といっても行進曲ばかり演奏していたわけではない)、ウィーンの軍楽隊の最高峰といわれたホフ=ドイッチェマスター第4歩兵連隊の楽長にまで出世する。軍楽隊を退いてからも、ツィーラーは幸福な音楽家生活を送ったのだそうだ。しかも、かなりの多作家で、その作品は600曲を越えるそうだ。音楽之友社の「新音楽事典 人名」を見ると、「ウィーン舞踏音楽の最後の代表者」まではいいが、「オペレッタ 放浪者 Die Landstreicher(1899) などは成功したが、シュトラウス一家の音楽ほどの魅力はもたない」などとにべもなく書かれていて、大方のツィーラーの見方を代弁した意見だろう。確かに、「シュトラウス一家の音楽ほどの完成度はないが」、「その甘く切ない情感と楽しさは、大きな魅力である」だと、小生は思う(^^)。
などと書いている。ヨハン・シュトラウスU世のウィンナ・ワルツは巨峰を見る思いだが、その他にも優れたウィンナ・ワルツの作曲家は大勢いた。ツィーラーもそのひとりだ。
クナによるツィーラー「ウィーン娘」は同曲では第一に聞かれるべき演奏だが、いかんせん録音が古い。その辺りのハンディキャップはあるものの、馥郁として魅力的な演奏は、クナのウィンナ・ワルツならではの演奏である。明るい情感が支配し、暗さを感じさせない。ワルツを聞いている時の、一時の夢を確実に見させてくれる。
シュトルツ盤と比べても、ファンタジーが豊かな演奏である。クナの各フレーズの呼吸のさせ方や、フレーズをつなぐブリッジが実に優しい。対抗旋律の魅力的な浮かび上がり方や、テンポの揺れが実に心地よい。
この当時から、クナの管弦楽の統御は独特で、弦楽器の独特のバランスと人なつっこいメロディの歌わせ方が聞ける。クナはなんでこんなにメロディの歌わせ方がうまいんだろう?「ウィーン娘」の魅力をフルに引き出している。口笛には違和感は残るが…。シュトルツ盤が行進曲の延長として聞こえるのに対し、クナ盤はその情景描写と情感に優れた演奏である。
最後に各CDについて。この楽曲、録音ではリファレンスを決めるのが虚しかった。
- Preiser/90116(Austria)
3種類あるPreiser盤では最初にリリースされた。ウィーン・フィル150周年記念アルバムとジャケットに書いてある。SP復刻のノイズはあるが、かなり安定した音。元になったソースの情報量の多さを彷彿とさせる。オーケストラの柔らかな音を楽しめる。
- Preiser/90139(Austria)
90116と同じ音である。ウィーン・フィルの古い録音のオムニバス。クレメンス・クラウス、ジョージ・セル、クナの収録曲が多く、エーリッヒ・クライバー、ブルーノ・ワルターの演奏が1曲ずつ入っている。
- Preiser/90236(Austria)
これもまた同じ音だが、少し音圧が上がり、高域に改善が見られる。なかなか素晴らしい音だ。90116はワーグナーからヨハン・シュトラウスまで、寄せ集めの観があったが、90236はクナによるワルツやポルカで占められている。
- Shinseido/EMI/SGR-8228(Japan)
川合四郎氏所蔵のSPからの復刻。Preiser盤よりもSP特有のノイズは多いが、これもまた情報量の多いSP録音を彷彿とさせてくれる。高域の粒立ちが良く、音の分離も良い。なかなか優れた復刻である。



