クナを聞く 第173回
リヒャルト・シュトラウス:「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快な悪戯」


1928/9/4 &5 Orchester der Berlin Staatsoper(Odeon Recording)

90260
TIM
Preiser/90260(Austoria)
TIM/Maestro Energico(Germany)10CDs
 クナの古い録音。1928年とあるから、クナのレコーディングでは、初期の頃の録音と言ってもいいと思われる。
 クナは「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快な悪戯」をけっこう振っているが、残念ながら今のところライヴ録音はリリースされていない。コンサート記録に残っている「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快な悪戯」は以下の通り。当たり前のごとく、Odeonへの今回取りあげる録音は含まれていない。
 クナは、リヒャルト・シュトラウスの交響詩では、「ドン・ファン」、「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快な悪戯」と交替するように「死と変容」をその晩年にはよく指揮をした。クナが「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快な悪戯」を指揮した最後の記録は、1949年3月5,6,7日のウィーンフィルとのコンサートである。
Odeonへのレコーディングは、1928年9月4日と5日に、ベルリン国立歌劇場管弦楽団とリヒャルト・シュトラウスの楽曲が数曲録音された。「サロメより7つのヴェールの踊り」、「インテルメッツォよりワルツ」と「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快な悪戯」だった。

 手持ちCDの整理。  廉価盤である、「Maestro Energico」は大変健闘しているので、どちらをリファレンスにして聞いてもいいという印象。小生はPreiser盤をリファレンスにすることにした。

 はっきり言って、クナで「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快な悪戯」を聞くという、必然性に乏しい演奏録音である。クナは既にバイエルン州立歌劇場の音楽監督に就任していたが、1928年当時は、ウィンナ・ワルツを除くと、あまりいい演奏録音はない。 「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快な悪戯」も、一所懸命なのか、レコーディングだからあまり乗らなかったのか、判然としない録音である。
 中には、途中のオーケストラの崩壊を面白がって、「これぞクナ」という人もいるが、クナの演奏は本当ならこんなものではないだろう。
 クナのOdeonへの1928年のスタジオ録音は、馥郁とドイツの田園風景の中で繰り広げられるトリックスター、ティル・オイレンシュピーゲルの風刺の効いた悪ふざけがゆったりと展開してゆく。低域がほとんど無い録音なので、クナ特有のピラミッド・バランスやティンパニーの一撃が聞こえないのは残念。まだ若いクナは、それでもオーケストラの各楽器の透明感を失わないように、丹念に演奏してゆく。ベルリン国立歌劇場管弦楽団の味も大時代的だが、かなりしっかりとした演奏である。
 中間部、舞踏曲がほんの少し現れるが、ウキウキと楽しい。クナの演奏で表現されるティル・オイレンシュピーゲルは屈折していない。かなりストレートに、民衆に愛されるトリックスターである。
 オーケストラがザワザワと合わない箇所から、小太鼓のロールでティルが捕縛されたのが分かる。やがて、刑場に曳かれてゆき処刑されるのだが、ティルの残像が民衆の間に残っているかのような余韻だ。やがてティルが蘇ったかのように跳躍するような最後の音で、稀代のいたずら者、ティル・オイレンシュピーゲルは永遠に不滅だとでも言うように音楽は幕を閉じる。
 クナの古い録音を聞くということでは貴重で小生など大好きだが、「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快な悪戯」を聞くリファレンスにはしにくい。この録音をもってクナの演奏を云々するにはちょっと無理があるようである。

 オイレンシュピーゲルは、「梟と鏡」という意味だそうである。実在していたとも言われ、ドイツのメルンという町にティル・オイレンシュピーゲルのお墓があるそうだ。生まれた時から死ぬまでが110話という短い物語が連なっている。魔術師、占星術師、錬金術師の側面も併せ持っていたらしい。
 実在したらしいティル・オイレンシュピーゲルは14世紀の人で、やはりいたずら者だったが、刑死ではなく病死したらしい。