1956年 5年ぶりにバイロイトで「ニーベルングの指環」を振る

1956年
 1月1日 バイエルン州立歌劇(摂政劇場)、ワーグナー/「ニュルンベルクのマイスタージンガー」
 1月9日 バイエルン州立歌劇(摂政劇場)、会員制非公開公演ワーグナー/「さまよえるオランダ人」
 1月15日 ミュンヘン、ドイツ博物館コングレス・ザールでミュンヘン・フィルの特別演奏会。ウェーバー/「オベロン」序曲、マーラー/「なき子をしのぶ歌」(a:ルクレティア・ウェスト)、シューベルト/交響曲第8番 D.944
 この後、クナッパーツブッシュはルクレティア・ウェストとたびたび共演をしている。

 1月27日 ドイツ民主共和国(東ドイツ)がワルシャワ条約機構に加盟。

 1月27日 バイエルン州立歌劇(摂政劇場)、新演出モーツァルト/「魔笛」
 「モーツァルトとプラトニックな関係」しか築けなかったクナッパーツブッシュだったが、新演出の「魔笛」が気に入ったのか、クナッパーツブッシュの重要なレパートリーとして定着する(ただ、クナッパーツブッシュは、晩年にハリー・バックウィッツの「魔笛」演出が気に入らず、舞台を見ずに指揮したという話もある。この頃の演出は別の演出家の手によるものだったのか?)。
 1月31日 バイエルン州立歌劇(摂政劇場)、モーツァルト/「魔笛」
 2月4日 バイエルン州立歌劇(摂政劇場)、ワーグナー/「ローエングリン」
 2月8日 バイエルン州立歌劇(摂政劇場)、モーツァルト/「魔笛」
 2月25日 フルシチョフによるスターリン批判。
 2月25日 バイエルン州立歌劇(摂政劇場)、モーツァルト/「魔笛」
 3月11日 バイエルン州立歌劇(摂政劇場)、ワーグナー/「トリスタンとイゾルデ」
 3月12日 バイエルン州立歌劇(摂政劇場)、モーツァルト/「魔笛」
 同日、クナッパーツブッシュは68歳になった。
 3月25日 バイエルン州立歌劇(摂政劇場)、モーツァルト/「魔笛」
 3月26日 バイエルン州立歌劇(摂政劇場)、ベートーヴェン/「フィデリオ」
 4月2日 バイエルン州立歌劇(摂政劇場)、モーツァルト/「魔笛」

 4月8日、9日 ベルリン音楽大学(ホッホシューレ)コンサート・ホールでベルリン・フィルのコンサート。トラップ/管弦楽のための協奏曲第3番 (正規未リリース録音より) 、マーラー/「なき子をしのぶ歌」 (a:ルクレティア・ウェスト)、ベートーヴェン/交響曲第5番 この時のコンサートは、すべて録音が残っている。

 4月11日 ベルリン音楽大学コンサート・ホールでベルリン・フィルと「うきうき気分のコンサート」。ニコライ/ 「ウィンザーの陽気な女房たち」序曲、チャイコフスキー/「くるみ割り人形」組曲、ブラームス/ハンガリー舞曲第5番、ブラームス/ハンガリー舞曲第6 番、ヨハン・シュトラウス2世/「加速度」、ヨハン・シュトラウス2世/アンネン・ポルカ、ツィーラー/「ウィーン市民」、ヨハン・シュトラウス2世&ヨーゼフ・シュトラウス/ピツィカート・ポルカ、ヨハン・シュトラウス2世/「美しく青きドナウ」、ルプレヒト/「奇術師」前奏曲
 4月15日 バイエルン州立歌劇(摂政劇場)、ベートーヴェン/「フィデリオ」
 4月18日 バイエルン州立歌劇(摂政劇場)、会員制非公開公演。モーツァルト/「魔笛」
 4月21日 バイエルン州立歌劇(摂政劇場)、ワーグナー/「さまよえるオランダ人」
 4月23日 バイエルン州立歌劇(摂政劇場)、リヒャルト・シュトラウス/「サロメ」
 4月28日 バイエルン州立歌劇(摂政劇場)、ベートーヴェン/「フィデリオ」
 5月7日、8日 パリ音楽院管弦楽団とDECCAスタジオ録音。
 この録音はステレオで行われていた。ただ、ヨーロッパではまだステレオ録音を再生する装置が一般化していず、また、リスナーに新フォーマットに対する根強い不信感があったため、モノラルでリリースされた。CD時代に入ってもモノラルでリリースされ続けたが、DECCA録音をイギリスTestament社が2004年にリイシューした時、なんと初めてステレオでリリースされた。

 5月11日 パリオペラ座に客演。ワーグナー/「トリスタンとイゾルデ」
 アストリッド・ヴァルナイがイゾルデを歌った。カルショーは客席で「トリスタンとイゾルデ」を聞いている。
「第一幕の終わりの『Rache!Tod!(復讐よ!死よ!)』でイ音と変イ音を叫ぶところで、彼女はわざと広い舞台の後方へまっすぐに下がった。これは何らかの声楽的欠陥をごまかすためによく用いられるトリックでもあるが、このときは絶対にそのようなものではなかった。あのパッセージがあれほどの貫通力と強烈さをもって歌われるのを、他では聞いたことがない。クナッパーツブッシュは彼女に投げキッスを贈った」(「ニーベルングの指環 リング・リザウンディング」)。

 5月13日から15日 ウィーン・フィルとDECCAスタジオ録音。
 キルステン・フラグスタートのための録音でもあった。

 5月20日 バイエルン州立歌劇(摂政劇場)、ワーグナー/「ローエングリン」
 5月22日 バイエルン州立歌劇(摂政劇場)、ワーグナー/「さまよえるオランダ人」
 5月27日 バイエルン州立歌劇(摂政劇場)、リヒャルト・シュトラウス/「サロメ」
 6月3日から6日 ウィーン・フィルとDECCAスタジオ録音。

 6月28日 ポズナンでポーランド反ソ暴動起こる(ハンガリー動乱の前兆)。

 7月26日から8月23日 バイロイト祝祭音楽祭
 クナッパーツブッシュは「ニーベルングの指環」チクルスと「パルジファル」を担当。もう1回の「ニーベルングの指環」チクルスと「さまよえるオランダ人」をカイルベルト、「ニュルンベルクのマイスタージンガー」をアンドレ・クリュイタンスが担当した。
 「ニュルンベルクのマイスタージンガー」の演出を、この年初めてヴィーラント・ワーグナーが担当したが、クナッパーツブッシュは興味津々だったようだ。
「(略)あるとき、散歩で立ち寄った祝祭劇場の客席に入っていった。
 舞台では《マイスタージンガー》第1幕冒頭の合唱が、ピアノ伴奏で練習中である。クナーは少しそれを聴いていたが、風変わりな前方に向かって傾いた舞台に気づいた。出口の方へと向かったクナーは、通路で舞台監督に出会ったので、彼の袖をさっとつかむと尋ねた。『ヴィーラントのヴァーンフリートの家もやっぱりあんな傾いた床だらけになっているのかい?』」
「アンドレ・クリュイタンスが指揮するこの上演の舞台を、クナーは写真ですでに知っていた。上演の初日が終わった翌日の午前、バイロイトの町を散歩していたクナーは、当時高名な批評家に出会う。この批評家は『南ドイツ新聞』に書いており、クナーを高く買っていた。クナーは批評家に言った。あの演出をまさかあなたは褒めないだろうね。もうしそうしたならオシオキものだ、と。しかし批評家は、忠告を感謝しつつも、自分はそれに賛同する批評をすでに送ってしまった、と答えたのである。批評家をそっけなく見るとクナーは言った。『グスタフ・マーラーにはとても美しい歌がある。”私はこの世から姿を消した”というね。』そしてくるりと背を向けると、そこから立ち去った」(以上、「思い出」、アイトラーによる)
 クナッパーツブッシュの「ニーベルングの指環」全曲と8月19日の「パルジファル」は録音が残っている。

  • 7月26日バイロイト祝祭劇場、ワーグナー/「パルジファル」
  • 8月8日バイロイト祝祭劇場、ワーグナー/「パルジファル」
  • 8月13日バイロイト祝祭劇場、ワーグナー/「ラインの黄金」
  • 8月14日バイロイト祝祭劇場、ワーグナー/「ワルキューレ」
  • 8月15日バイロイト祝祭劇場、ワーグナー/「ジークフリート」
    ただ、この日、クナッパーツブッシュは指揮をせず、カイルベルトに指揮をゆだねたという情報がある。
    バイロイトのホームページにも、クナッパーツブッシュの記録に8月15日の「ジークフリート」の記載がない。
    http://www.bayreuther-festspiele.de/fsdb_en/personen/178/index.htm
    ただ、ヨーゼフ・カイルベルトの息子、トーマス・カイルベルトが2008年に父親に関する本を出したが、その中に、ヨーゼフは12日に一旦バイロイトを離れてミュンヘンに行き、20日に再びバイロイトに戻ったという記載があるそうである(Thanks Mr.Zepos)。
    http://www.perlentaucher.de/autor/thomas-keilberth.html
    また、クナッパーツブッシュ盤とカイルベルト盤を聞き比べた方は、音楽の伸縮などから、カイルベルトではありえないとのことだった(Thanks 吉田光司氏)。
  • 8月17日バイロイト祝祭劇場、ワーグナー/「神々の黄昏」
  • 8月19日バイロイト祝祭劇場、ワーグナー/「パルジファル」
  •  8月23日バイロイト祝祭劇場、ワーグナー/「パルジファル」

 1952年以降、バイロイトの常連指揮者であり、クナッパーツブッシュと張り合おうとしたカイルベルトは、この年が最後のバイロイト出演となった。ヴィーラントは「祝祭最終日の8月25日にカイルベルトに対し翌年の契約更新をしない旨を通告した。『彼はこれを(カイルベルト)夫婦の休暇旅行と言ったが、私はこれを追放と呼ぶ』と、カイルベルトはその日の日記に記した」(吉田真著「肝心なのは芸術」録音でたどるバイロイト祝祭の黄金時代 クラシックジャーナル028)

 8月30日バイエルン州立歌劇(摂政劇場)、ミュンヘン・オペラ祭。ワーグナー/「ローエングリン」
 9月2日 バイエルン州立歌劇(摂政劇場)、ミュンヘン・オペラ祭。リヒャルト・シュトラウス/「ばらの騎士」
 9月4日 バイエルン州立歌劇(摂政劇場)、ミュンヘン・オペラ祭。モーツァルト/「魔笛」
 9月9日 バイエルン州立歌劇(摂政劇場)、ミュンヘン・オペラ祭。ワーグナー/「ニュルンベルクのマイスタージンガー」

 9月 バイエルン州立歌劇のこのシーズンから、ケンペが抜けクナッパーツブッシュがその任を拒否した音楽総監督に、フェレンツ・フリッチャイが就任する。

 10月13日ミュンヘン、ドイツ博物館コングレス・ザールでミュンヘン・フィルの特別演奏会。ベートーヴェン/交響曲第8番、ボッケリーニ/チェロ協奏曲(vc:フリッツ・キスカルト)、ブラームス/交響曲第2番
 この日の録音とされるものが残っている。

 10月17日から19日 ミュンヘン・フィルとスイス・ツアー。

  • 10月17日バーゼル
  • 10月18日アスコーナ
  • 10月19日チューリッヒ

 アスコーナでのコンサートのうち、ベートーヴェンとブラームスの交響曲の録音が残っている。

 10月23日 ハンガリー動乱勃発。

 10月28日 ベルリン州立歌劇、ワーグナー/「ニュルンベルクのマイスタージンガー」
 11月4日 ドレスデンに客演。シュターツカペレ・ドレスデンとシンフォニー・コンサート。録音が残っている。

 11月10日 バイエルン州立歌劇(摂政劇場)、ワーグナー/「ラインの黄金」
 11月11日 バイエルン州立歌劇(摂政劇場)、ワーグナー/「ワルキューレ」
 11月15日 バイエルン州立歌劇(摂政劇場)、ワーグナー/「ジークフリート」
 11月18日 バイエルン州立歌劇(摂政劇場)、ワーグナー/「神々の黄昏」
 12月2日 バイエルン州立歌劇(摂政劇場)、ワーグナー/「ローエングリン」
 12月6日 バイエルン州立歌劇(摂政劇場)、ベートーヴェン/「フィデリオ」
 12月17日 バイエルン州立歌劇(摂政劇場)、会員制非公開公演。モーツァルト/「魔笛」
 12月26日 バイエルン州立歌劇(摂政劇場)、リヒャルト・シュトラウス/「ばらの騎士」

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